もずのわくわく劇場日記 No.20


1998年 5月17日(日) 「ショート・ショート編」

女神・有森由希の愛の聖戦 PART U


 前回のお話〜憂える女神の奇蹟〜有森由希

 女神有森は遠く離れた天界から、闇の中に浮かぶ地球を見降ろして
 いた。かつては青く澄み渡った美しい星であった。

 しかし、今の地球はどうだろうか。
 大気の温暖化、ダイオキシンによる汚染が進み、人間たちの心は荒み
 傷つけあい、自らの存在すら見失っている…
 女神有森の心は悲しみにあふれていた。

 このままでは宇宙のオアシス「地球」は、生命無き「死の星」となるのは
 時間の問題だろう。女神有森の悲しみはK点を越えた。

 今こそ私の力でこの星を救い、かつての青く澄み渡った「地球」を取り戻
 さなくてはならない!
 強烈な決意と愛を胸に秘め、女神有森の聖戦は始まった。


女神有森が汚れ行く地球を救うべく、愛の聖戦を展開して早くも二ヶ月が過ぎた。
さて、女神有森は一体どうしているだろうか…

女神有森は小学校の先生になっていた。どうしてまた?
女神有森は今まで心荒んだ男達を聖なるパワーで、懇切丁寧に浄化してきた。しかし、その作戦は必ずしも間違いではなかったが、余りにも直接的な現況への処置にしかならなかった事に気がついたからだ。

女神有森の目的は、宇宙のオアシス「地球」と言う星を、もう一度清く澄み渡った美しい星によみがえらせる事にあった。そのために遥かなる天界からわざわざやって来たのだ。一時しのぎ的な処置をいくら重ねても、その成果は先が見えている。そこで女神有森は考えて見た。

「私の思い描く目的を果たすためには、近未来的な視点での活動が大切な事。もっと恒久的に私の意志が人間達に引き継がれなくては意味がないんだわ…私がこの星を離れた後、またもとにもどってしまったのでは、何にもならないのよ…」女神有森の新たな作戦が始っていたのだ!


さて、ここからが今回の「女神・有森由希の愛の聖戦 PART U」の始まり!

女神有森はすっかり小学校の先生として人間達の中に溶け込んでいた。
生徒達からは 「薄いラベンダー色のワンピースが良く似合う有森先生」 と呼ばれ、慕われていた。元々女神有森は、清楚にして可憐、それでいてエネルギッシュなオーラに包まれている。何しろ人間では無いのだ。女神様なのだ。

そんな生徒達から憧れの的になっている 「有森先生」 の今日の授業は、屋外に出ての写生の授業だった。ここ北海道では、 (無理矢理…) 今見渡す限りの大地に紫のラベンダーが咲き乱れていた。その良い香りのするラベンダー畑の中で、風景のスケッチを生徒とともにしようと言うのだ。有森先生は生徒達に 「自分の好きな場所で、スケッチを始めなさい。」 と指示をしながら決められた時間まで自由行動を取らせた。そして、自らもスケッチブックを広げ、香りの良い紫のラベンダーに囲まれて、美しく広がるラベンダー畑のスケッチを始めた。

女神有森は、時々生徒達の事を見守りながらも、スケッチをしながら独り想っていた。

「こんなに素晴らしい風景の広がる地球と言う星… 宇宙の何処をさがしてもこんなに美しい星は無いわ… きっと私の手で、守って見せるわ! きっと、元どおりの清らかな星にしてみせるわ…」

そんな強い決意を新に、その豊満な胸の中に改めて刻み込んでいた…

スケッチに没頭する女神有森の背中越に突然! 甲高い男の声が響いた! 女神有森はドキリ! としながら、思わず振り向きざまにファイティングポーズをとった!

「あらららら… 有森先生! 中々どうして絵が上手なんですねぇ。」

いきなり肩透かしをされたように、自分のスケッチブックを覗き込まれた事に女神有森は狼狽し、あわててスケッチブックを豊満な胸に抱きしめるように隠し、甲高い男の顔を見上げると、声の主は隣のクラスの担任、北野広大であった。

「北野広大」 は一時、利尻島の分校に着任していたが、島の過疎化により分校が廃校となり、ここ北海道本島へ転任して居たのだった。かつて 「熱中先生」 として多くの人から厚い信望を得ていたが、その教育に対する厚い信念は未だに健在であった。

女神有森は、いっとき女神である事を忘れ、純な女の顔で北野の事を見つめていた。
北野はそんな汚れを知らない少女の様な有森の目を見て、言葉を続けた。

「あらららら・・ すみません、驚かしちゃいましたかぁ。いえね、あんまり有森先生の絵が上手に描けていたもんでねぇ、ついおっきな声を出しちゃいましたぁ… でも、有森先生は何をしてもお上手なんで、感心してるんですよ。」

有森はポッ! と頬を紅らめながら、「そ、そんな事は…無いんです…」 と目を伏せながら言った。

「北野先生こそ、生徒の視線で熱心に生徒の事を見守ってあげていらっしゃるので、私は北野先生を尊敬しているんです。」

女神有森は思わず言ってしまった。一体、女神有森はどうしてしまったのだろうか… 北野広大はのけぞりながら甲高い声で大笑いした。

「有森先生にはとてもかないませんよ!」 と笑いながらさらに続けた。

「有森先生はこの場所はお好きですか? ぼくはね、この場所が大好きなんですよ。ぼくも色々な所へ転任して、色々素敵な場所を見てきましたけれどね、今はここが一番好きなんです。広々とした大地にラベンダーの花が咲き乱れる、こんなに美しい所はありませんよ。そう、まるで天国の様なところです…」

「天国…」 女神有森は、オオム返しに呟いた。宇宙の何処を捜しても、ここのような美しい星は無い… 宇宙のオアシス 「地球」 ならではの風景だ… 顔中シワだらけにして微笑んでいる北野を、ボーッと見つめ返したままそんな風に思っていた。すると北野は 「あれ? ぼくの顔に何かついていますか?」と真顔で有森に問い返した。有森はあわてて、「い、いえ! 何にも…」 と、曖昧な微笑みで返した。

北野広大は、「そうですか。」 と微笑み、遠くを見ながら有森に言っているのか、独り言を言っているのか定かではないが続けて言った。

「こーんなに綺麗な風景を我々の子供、孫、ひ孫、そしてもっともっとずーっと先の子孫達にも、このまま残してあげたいですね… ぼくは毎日ここへ来て、そんな事を考えているんです… ははは… 歳をとったんですかねぼくも…」

北野は独りで黄昏ていた…

そんな北野広大の言葉を聞いて、女神有森の心は熱く燃えた。そして北野に言った。

「北野先生! きっと先生の考えているようになりますよ。きっとそうしてみせますから!」

すっかり鼻息の荒くなった女神有森が思わず口走った。そんな有森の言葉を聞いた北野広大はカッカッカ! と笑いながら、「有森先生は素敵な人ですね。」 そう言いながら自分の生徒がいる方へ引返して行った。

すっかり興奮して息を乱した女神有森は、引返して行く北野広大の後ろ姿を見送りながら、放心していた。この時、女神有森の豊満な胸の中に、何かモヤモヤとした暖かな感情が芽生えていた… ラベンダーの良い香りがそよ風に乗って香っていた。



有森先生こと、女神有森は再び気分を改めてスケッチの続きを書いていると、一人の生徒がやって来た。男の子だ。有森はスケッチの手を止めて 「どうしたの? もう絵は描けたのかな?」 と、声を先に掛けた。するとその男の子は、モジモジしながらあやふやな返事を返しているので、有森は怪訝に思い、「うん? どうしたの? 私に何か言いたい事があるの? なにかしら…」 と言った。するとその男の子は、更にモジモジしながらとつとつと話し始めた。

「有森先生… あのね、ボク有森先生の事が好き!」 唐突な男の子の言葉に有森は一瞬たじろいだが、ふふっ! と小さく笑い、男の子に言った。

「そう… ずいてん君は、先生の事が好きなの…」 有森は微笑みながら男の子に聞き返した。そう言われて男の子は身を固く緊張させて、コックリとうなずいた。そんな姿を見て有森は、嬉しいやら、可笑しいやら、微笑ましいやら… とても気分が良かった。そして、女神のくせしてちょっと意地悪して見たくなり、さらに男の子に問い掛けた。

「ずいてん君は、先生の事どれくらい好き?」 そう聞かれて男の子は、紅葉の様なちっちゃくて可愛らしい手を肩幅くらいに広げて、「これくらい好き!」 と言う。有森はそれを見て更に問う。

「それだけ?」 あわてて男の子は、首を左右に振り、「ううん… もっと! これくらい好き!」 と、短い両腕を目一杯広げて、有森に言う。有森はケラケラ… と笑いながら、「そう、そんなにたくさん先生の事好きなの。ありがとう…」 そう言うと、有森先生は男の子に 「じゃぁ、こっちにいらっしゃい!」 と言いながら、その男の子を自分の隣に寄り添わせるように座らせ、男の子の背中へ手を回し、肩を抱き寄せた。

男の子は、意外な展開に緊張しながら、有森先生にされるままにしていた。そうして有森先生は、男の子を優しく抱き寄せながら、子守歌を歌うように肩にまわした手のひらで軽く調子をとり、遠くを見つめながら優しく歌った。

♪「君とずっと、こうしていたい… 何度言っても、言い足りない… 君の髪に、顔をうずめて、愛しているとささやきたい…」

そう、ずっと歌いながら男の子の事を、優しく包み込んでいた。男の子は歌のように有森先生に抱かれるまま、顔を有森先生の髪にうずめている。有森先生の黒い髪はサラサラしていて、ほのかにラベンダーの甘い香りがした。

やがて歌い終わると、有森先生は男の子に話し掛けた。

「ずいてん君は、天国って何処にあるのか知ってる?」

男の子は唐突な有森先生の質問に答えようと必死に考えていたが、答えを導き出す事は出来ずに、黙っていた。有森先生は男の子の事は見ずに、遠くを見たまま独り言のように言った。

「天国ってねぇ… ここ以外の場所の何処にも無いの… ここがね、天国なのよ。みんな天国に自分が住んでいるのに、その中に居るから気がつかないのよ… 悲しいね。元々ここの天国で、人も鳥も、けものも、花も、みーんな仲良く暮らしていたのよ。みんなそれぞれの 『すみか』 を犯さずに、楽しく暮らしていたわ。山も川も海も空も、今よりずっとずっと澄み渡って綺麗だったわ…

それなのにね、何時の間にかそれぞれの 『すみか』 を皆が犯し始めて、みんなで争いを始め、傷付け合って、イガミあって… 山も川も海も空も、だんだん汚れてきたわ。早くその事に気がついて、この美しい天国を昔のように綺麗に洗濯しないとね、もう、二度と元に戻らなくなってしまうの… 悲しい事だわ。

だからね、ずいてん君がね、先生の事をすっごく愛してくれるのと同じだけの愛情で、この天国… この地球をね、愛して欲しいのよ。天国ってね、みんなの物だけれど、誰のものでもないの。そこに住んでいるみんなが、大切に守り続けてくれないと、きっと何処かへ消えて無くなっちゃうのよ。そんなのって嫌でしょ?

ずいてん君のお父さんやお母さんが生きている地球、今ずいてん君が生きている地球、将来ずいてん君の子供たちが生きて行く地球… それが真っ黒に汚れて、消えて無くなったら悲しいよね… だからね、先生も美しい地球を守るためにね一生懸命ガンバルから、ずいてん君も自分に何が出来るのか良く考えて、自分にもできるなぁ… って、思う事があったら、何でもいいから、どんな小さな事でもいいから、やっていってね。

天国を愛する事、地球を愛する事、それが人を愛する事につながるのよ。ふふふふっ… ずいてん君にはまだ難しいかなぁ…」

そう言いながら有森先生は、キュッ! と、男の子を抱いている手に力を入れた。男の子には、分かったような分からないような… 何だか知らないけれど、胸が熱くなった事だけは、しっかりと感じていた… それと、有森先生のサラサラとした髪が、甘い何とも言えないような良い香りがした事だけは、ずっと忘れないだろう…

「さて! ずいてん君、スケッチの時間も終わりだよ! みんなと一緒に教室へ帰ろうね!」

女神有森の 「愛の聖戦」 は、こうしてまた一つ先へ進んで行くのだった。きっと、男の子が大人になっていっても、おりに触れ有森先生の言った言葉が心の何処かに住み着いて、必ずこの美しい星 「地球」 を守るために、何かの行動をとってくれる事だろう… そう、女神有森は期待している。



注意!

このページの話は、有森由希さんのステージを見ながら、筆者が自分勝手な解釈・夢想を思い描いたものであり、決して有森嬢は天界からやって来た女神様ではありません。文中に登場する「ずいてん君」に深い意味はありません。強いて言うなら、作者の特権!です。(笑い)

有森由希さんは、とても素敵なステージでみなさんを楽しませてくれる、素晴らしい踊り子さんです。お近くの劇場で是非ともご観劇下さい。