もずのわくわく劇場日記 No.19


1998年 5月31日(日) わらびミニ

金蘭嬢に何が起きたのか?! [日記編]


朝6時、部屋の窓から差し込む、柔らかな陽射しと戯れながら私は目を覚ました…
トロトロとしたまどろみの世界で私は、海を見つめていた。晴れ渡った空、穏やかな波。高く昇った太陽。キラキラと光を反射して、目に眩しく映っている。遥かな水平線には、まるで止まっているかのような貨物船。時の流れが緩やかに過ぎてゆく…さぁ、ゆっくりと身体を目覚めさせ、素晴らしい一日の幕開けを祝福しよう。

タイガーの電気ポットから熱い湯を白いマグカップにそそぐ、トクトクと音を立ててネッスルのインスタントコーヒーが白いマグの中で渦を巻きながら溶けて行く…香ばしいコーヒーの香りが漂ってきた。いつものように砂糖は入れない。「ひとすすり」すると熱いコーヒーが体の中に染み込んで、心身ともにそう快な気分だ。日曜の朝、自由な空間つかの間の贅沢タイムだった。

さらに私はフレッシュな私のマクロプログラムを進めるために、パソコンのスイッチを押し込む。メールのチェックをするためだ。いつもならいらつくWINDOWSの起動時間も、今日の様な自由な朝には、まったく気にならない。なんて素晴らしい朝なのだろう…

モデムの音も心なしか元気がよい。「ピッ!」と言う電子音を立てて、受信トレイにメールが流れ込んだ。某嬢からの物だった…一通り目を通し、メールを閉じた。来月のロック座公演では、是非とも練習の成果を惜しみなく発揮して、素敵な舞台を見せて欲しいものだ…

さて!電車の時間が迫ってきたので、出かける準備を整え、パパとママに朝のあいさつを軽くしながら、いそいそと駅まで続く道を「♪ずっと君とこうしたかった…君の髪に顔を埋めて…」と鼻歌まじりで足取りも軽く、歩いて行く。…なんて素晴らしい朝だろう…



午前9時38分。私はわらび駅の改札を抜け、駅前のロータリーへ出た。思っていたよりもずっと開けた街並みで、お店も数多く並んでいた。さらにまだ10時前だというのに、ほとんどの店が開店している事に驚く。一応確認のために「げんさんの劇場案内」をプリントアウトしたものをカバンから出す。…なるほど書かれているように、ロータリーの向こうに左右に道路が突き抜けている。それを右へ行くのだな!自分に納得するように言い放ち、ロータリーを横切った。横切りながら、駅に向かって左側に花屋が開いている。その左となりにはコンビニもある。その辺りを瞬時にチェックして、心置き無く「わらびミニ」へ向かった。

ロータリーを渡りきり、右へ曲がって行くと「ケンタッキー」があり、さらに行くと不動産屋があり、その斜め手前の合向かいには地味な花屋があった。駅前の花屋に比べると、花束を注文すると、墓参りに行くような花束を作ってくれそうな店だった。(失礼!)一応チェックしておく。不動産屋の右隣りが二階へ行く階段になっていて、その入り口に「わらびミニ劇場」と書いてあった。さらに上を見上げると、そこにも縦長の赤い看板が出ていて、「わらびミニ劇場」と書いてある。

取りあえず、狭そうなところだな!と言う事は分かった。私は左手首にはめている、ローレックスの時計には似ても似つかない1980円で買った時計の文字盤をのぞきこむと、10時の会場時間には、余りにも早くつき過ぎた事を把握し、とにかく劇場の場所も分かった事だし…と、贈答用の花を買いに駅前の花屋へ戻り、手ごろな物を見つけたので、それを買った。



開演時間は11時30分からなので、時間的にはずいぶん余裕がある。そうかと言って、表にいても仕方ないので、今日の席を確保するために、狭い階段を上へ登って行く。テケツがあったが、誰もいない。早朝割引2500円と言う張り紙があった。しかし、誰もいないので、どうしたものかと階段で立っていると、劇場の人らしいおじさんが、「お客さんかい?」と階段の奥の方から出てきたので、「はぁ…」と答えると、「じゃあ、中で待っててよ!」と言って、引っ込んでしまった。「……」私はとにかくそう言われたので、階段を上がって行く。

上を見上げて見ると、店屋物の「どんぶり」が階段や踊り場の片隅に置かれている。「わりばし」などがどんぶりの中に、突っ込まれたままだ…何と言う生活観のある劇場なのだろうか…とそんなものを見つめながら、ずっと登って行き、開け放たれたドアから中へ入ろうとして、のぞきこむと奥の方に布団が敷いてある。「?」一瞬たじろいだが、「あれ?楽屋か?」と階段の下の方を見下ろすと、途中に自販機が置いて有り、ちょっとした机と椅子もあった…どうやら私は、階段を上り過ぎてしまったらしい。あわてて自販機の所まで降りて行くと、反対側に入り口があった。今の行動を誰にも見られて無いか、辺りを見回し、ドアをあけた。



私はバネの強い黒いドアを右手で押し、中へ入ろうとして、思わず立ち眩みを起こした。ほとんど奥行きの無い劇場内で、すでに席に着いていた「おじさま」達が、一斉にと言うか、入り口に向かって、座りながら私の顔をにらんでいた…私は場内へ入る事に、くじけてしまいそうだった…しかし、中へ入らない事にはどうにもならないので、何とか踏み込んだのだが、二歩進んだ所で力尽き、一番手近な席へ座り込んだ。

椅子は黒いベンチシートであり、それが花道に沿うように二列並んでいた。椅子の幅も充分とは言い難い。まるで仮住まいのように、そっと座り、それでも何とか居場所を確保出来た。劇場内を見渡すと、さすがに「ミニ」と言う状況だった。客席と花道、前盆を含めて5M×5Mくらいだろうか、幅の狭い花道の先に畳一枚チョットくらいの四角い前盆。客席からの高さは、割と低い。

もっとも、天井高が、低いのでそれでも高くとった方だろう。そして本舞台は、幅4M×奥行き3M×高さ2.5Mくらいで、天井から「ハリ」が下がっているので、その下では、1.7M程しかなく、背の高い踊り子さんなら頭がハリについてしまいそうだ。壁には鏡が全体に貼ってあり、踊り子さん達は舞台の左手から、暗幕をかき分けて下から上がって来るといった塩梅だ。

正直な所、この舞台で本当に踊れるのだろうか?そう言った疑問が頭を離れない…今まで私が行った劇場の中でも、格別コンパクトな劇場だった。しばし場内の探索が終わるまで席に着いていた。しかし…金蘭さんの新作を見せて頂くには、とても寂しい気持ちがした。個人的な思い入れではあるのだが、出きる事ならラブームあたりで、まばゆいライトの中、金蘭さんをおもいきり踊らせてあげたいと言う気持ちは消せなかった…(こんな書き方は劇場の人には失礼なのは承知しているのだが…)

ともあれ、私の頭の上で上演されているAVなどは見る気にもなれず、バッグの中からMDを取り出し、お気に入りの「谷山浩子」の曲を聴いていた。「♪空を翔けて行く夢で君を抱きしめる…ぼくは淋しさを星にかえたペガサス…」何なんだろうこの淋しさは…私は今まで劇場へ来て、こんなにブルーになった事は無かった…何となく、もっと明るい所へ行きたくなり、ドアを開けて踊り場へ出た。別に飲みたい訳ではなかったが、気を紛らわせたくて、缶コーヒーを買う。コーヒーを胃の中へ流し込みながら、何故かうまい!とは思えなく、取りあえずそうする事しかなかった。

飲み終わった缶をごみ箱へ捨て、階段をちょっと登った所に窓があった。開放された窓から心地よい風が吹き込んでいる。外を眺めて見ると立体交差になっている道路が左手に見える。正面は駐輪場だった。相変わらず天気だけは良く、少しは気分も良くなってきた。下の道を行き交う人をぼーっと眼で追っている時、突然私は何者かから肩をたたかれた。あわてて振り向くと、金髪のお姉さんが底無しに明るく大きな声で私に何か話かけて…と言うよりも、一人で何やらまくしたてていた。私は対処不能で、固まってしまった。何語なのか良く分からない言葉で、一方的にしゃべりまくり、ケタケタと言う笑い声と、人懐こい目をして何だか分からないうちに楽屋へ入っていった…

何なんだあれは?呆気に取られて金髪のお姉さんを見送り、突っ立っていると、劇場の人から「集金するから中へはいってよ!」といわれ、指示に従った。席へ着いていると、劇場の人が、お客一人ひとりに、入場料を集金している。こんなのも初めての事だった。ともあれ、開演時間になった。しかし、私の超ブルーな気分が払拭された訳ではない。せめてトップを飾る踊り子さんに、期待するしかなかった…