もずのわくわく劇場日記 No.21


1998年 6月14日(日) いわきミュージック

ずいてん始末記! 日記 編


「お姉さん、お姉さん!今夜は何時までの約束で来てるの?」

私はそう彼女に尋ねた。ピンクの着物を着て丁寧にメイクアップされた顔は、何処かで会った事があるような面影があるのだが、まさかこんな所に知り合いがいる訳は無く、他人の空似であろう…そう思いながらもつい過去の記憶をたどってしまう。

「えっ?今夜…そうね、8時半までだと思ったけど。」

彼女は陽気な声でそう答えた。私は腕時計を見るために、浴衣の袖をたくし上げている。そして「8時半か…」と宙を見上げてつぶやいた。

「ねぇ、なに?何があるの?」

彼女は私の小さなつぶやきを聞き逃してはいなかった。私は彼女の黒い瞳をちらりと見たが、再び視線を別の方向へ向け、「いや、何でもない…ただの独り言さ。」無責任に言い捨てた。もちろん彼女はそんな言葉で納得する筈は無く、さらに私に食い下がった。

「ねえ、誰かと約束があるの?ねぇ、そうでしょ!」

彼女は私の浴衣の袖を引っ張りながら、問い詰めるが、私は彼女の質問に答える義務は無く、黙ったままタバコに火をつけようとした時、彼女は帯の間に挟まれているライターで、素早く私のタバコに火をつけようとした。しかし、私は彼女の差し出したライターの火を「ふっ!」と息で吹き消した。

「なによ!せっかく火を付けたのに!一体どう言うつもり?」

大きくパッチリとした眼を、さらに大きく見開いて彼女は私に詰問した。私は不敵な笑みを顔に浮かべ、ぽつりと言った。

「それ…百円ライターだろう…、そんな安物の火じゃぁ、オレのキャビンが汚れるぜ!」

もう我慢が出来ない!と言った表情で私をにらめつけ、それでも無理矢理その怒りを押さえるように、静かに彼女は言った。

「そ、それじゃぁ聞きますけどぉ…どんなライターならあなたのタバコに似合うのかしら。」

彼女の手がワナワナと、怒りに震えている。私はまだ火のついていないキャビンをくわえたまま、浴衣の内ポケットから愛用のライターを取り出し、おもむろに火をつけ、キャビンの白い煙を宙に解き放ち、彼女に向けて一言つぶやく。

「カルチェだ…」

「なっとく出来ない!」とでも言うように、不満に満ちた眼を私に向けながら、強い語気で叩き付けるように言う。

「ただの百円ライターじゃない! どこがカルチェのライターなのよ!」

すっかり興奮し、感情が高ぶっていた。私は興奮している彼女の事をなだめるように言う。

「見てみろよ…」そう言いながら、さっき火をつけたライターを彼女の方へほうり投げる。突然放物線を描きながら飛んできたライターをあわてて受け取った彼女は、そのライターをシゲシゲと見ると、突然!声を立てて、笑い出した。

「なぁーに?これ…? ばっかみたーい!信じられなーい!アホー!」

顔のメイクがひび割れてしまうほど、ケラケラと表情を崩して笑う彼女の見たものは、何だったのだろう?そう、百円ライターの胴の部分に、マジックで、「カルチェ」と楷書で書いてあったのだ。(笑)

そんないつもの「ずいてん」の宴会風景なのだが、今夜は何時までもそんなお遊びはしていられない。「ずいてん」には、行く所があるのだ。



ようやく気分を直した彼女が、再び私に向かって鼻をふくらませて言う。

「ねぇ、この宴会終わったらさぁ!二人で飲みに行こうよ!良い所知ってるからさぁ…ねぇ、行こうよ!」

鉄人「ずいてん」の心は、その様な誘惑には、微動だにしない!吐き捨てるように眼をパチパチさせている彼女へ言った。

「いかないよ!今夜は行く所があるんだ…」

かたくなな拒絶の言葉だった。しかし、そんな事で彼女も負けてはいない。

「大丈夫だよ、お客の酒飲んだりしないし…そんなら、部屋で一緒にサッカーでも見ようよ…日本負けないように一緒に応援しようよ!」

「ずいてん」もさすがにあきれた…コンパニオンつれて部屋でサッカーのTV見て、翌日の請求書が○万円!なんて事になったら、泣くに泣けない…私は仕方なく、彼女に言った。

「悪いが、私はいわきミュージックへ行かなくてはならないのだ…」

それを聞いた彼女があきれた顔して私に言う。

「いわきミュージック?!あんなとこ行ったて、見てるだけで何にも出来ないんだよ!」

大きなお世話だ!別に女の人に何かをしようと思って、来た分けではないのだ。温泉客のすべてが、やる為に来ている訳ではない。私はショーが見たいのだ。普段劇場へ遠征出来ないので、今回の様な旅行などを利用して、最寄りの劇場へ行くのが、当初からの目的なのだ。最初から「げんさんの劇場案内」と、ミントさんのページで、いわきミュージックの情報は入手済みだった。今回は、東二美さんが出ており、彼女のソロが見られるので、とても楽しみにしていたのだった。

以前「シアターずいてん」を始める前に、「東二美」さんは浅草で出た時に、見たのだが、その時はこの時にデビューしたのか、若しくは新人さんだった頃で、群舞にしか出ておらず、踊りもまだまだと言ったものだった。あれから彼女も色々な経験を積んだであろうから、その後どうしているだろうと思っていた。そして、今回彼女のソロステージが見られるので、是非ともいわきミュージックへは、来てみたかったのだ。

宴会も終わると、私はすぐさま部屋へ戻り、私服に着替え、他の仲間達がウロウロしている間に、「すみませーん!私は個人行動をとりまーす!」と、そそくさとホテルのロビーへ降り、フロント係りの人に「いわきミュージックの送迎車呼べますか」というと、係りの人は事も無くいわきミュージックに電話して、**です。一人お願いしますというと、外で待ってて下さいと言うので、玄関の外で一人立っていると、他の仲間が「おーい、一人でいい思いしに行くのかよー!」とじゃれ付いて来たが、私は相手にしない。

早く迎えに来てくれないかなぁ…と思っていると、送迎車が来た。嫌な予感はしていたが、劇場の宣伝カーだった…恥ずかしがっている場合ではない。とっとと、その派手な車に他の仲間の視線を振り払うように乗り込み、一路いわきミュージックへ向かう。と言っても、すぐ近くだった。

いわきミュージック

すぐに車から降り、中へ案内される。広くは無いが、一応ロビーがあり、色々な踊り子さん達の写真がたくさん壁のウインドーの中に貼られていた。とりあえず、香盤表を探すが見つからないので、先に劇場内へ入る事にしよう。

ドアをあけて中へ入ると、割と広くてラブームくらいの広さだった。客席から比べると、本舞台はまずまず広い。これならそんなにストレスなく踊れるくらいのスペースはあるだろう。花道も歩いて行くだけならこんなものか…ただ、盆は、チョットベット演技をするのには、制約がありそうだ。丸く無く、多角形をしている。角を数えてみたら、10角形だった。照明は…気持ちだけみたいだ。しかし、劇場内は、中々綺麗で、感じ良かった。お客は…浴衣を着たお父さん達が、10人くらいいて、花道の脇でいびきをかいて寝ている人もいた。温泉場の劇場なので、まぁ、予想はしていたので、そんなに驚く事でも無かった。

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