もずのわくわく劇場日記 No.53


2002年 6月 14日 (金) 新宿ニューアート

「SNAシリーズ Vol.15 」

「シンデレラ even if・・・最終回 その[」

 〜 葉山小姫 嬢のステージより・イメージストーリー 編 〜


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[ 最終回 第八話 even if ・・・]


サキは一晩泣き明かして、真っ赤に充血した目をこすりながら、荷物をまとめ
ていた。たった一日の出来事で生涯すべての喜怒哀楽を体験した思いだった。
午後11時のチェックアウトにはまだ少し早かったが、どうしてもまたこの場所
で彼にそのまんまで会うなんて、迎えに来てもらうなんて言うマネは出来ない
そう思っていた。仮に彼の言葉通り、彼に出迎えてもらったとしても、どの道
そこから先は行き止まりの袋小路が待っているだけなのだ。

いや、そんな事よりも自分をこんな目に合わせた彼を素直に受け入れるなんて
サキに限らず、誰にも出来ない事だろう。サキは一足先にホテルのチェックア
ウトを済ませ、彼にはもう会わないように、裏通りの出口から外へ出た。

そんな事を知らない彼は、昨夜のままのベンツでサキを迎えに来た。駐車場へ
車を入れるために、ホテルの裏口へ車をまわした。サキは寝不足と精神的な
疲労で腫れぼったい顔をしていた。自分でもスッキリとしていない事に不満を
抱いていた。裏通りに面したお店の窓ガラスに、何となくその腫れぼったい顔
を写してみた。

「あ〜ん、嫌になっちゃうなァ〜 こんな顔・・・恥ずかしくて歩けない。」

そう思いながら窓ガラスを覗き込んだまま、顔をマッサージして見るが、どう
にもなるものでは無かった。すると、ガラスに写る視界の中に見覚えのある
ベンツを見た気がしたので、反射的に後ろを振り向いた。
明らかにそれは昨日まで二人楽しい時を過ごした、彼のベンツだった。

サキの立っている位置からそれは少し距離があったが、サキはとっさに身を
ひるがえし、物陰に隠れてベンツの動向を充血した目で追っていた。
ベンツはスムーズにホテルの駐車場に滑り込んだ。サキは一人思った。

「彼はちゃんとあたしの事を迎えに来たんだ・・・どう言うつもりかしら」

すると車のドアを開けて、彼が急ぐようにしてホテルの中へ入って行った。
サキはしばらく彼は戻って来ないだろうと、駐車場の方へ歩き出した。
ベンツに近寄るサキ。窓から車の中を覗き込んでみた。
あれから彼は一体どうしていたのか、車の中を見たら何か分かるかも知れな
いと思ったからだった。

ジロジロと車の中を視線で探っていると、一体何が起きていたのか分からな
いが、CDや小物や彼の上着までが、床の上に散乱している。車の外装もだい
ぶ汚れていた。サキには、きれい好きな彼の車とは思えない程だった。

「なぁ〜に、これ。どうしちゃったのかしら ? ドアロックもしていないよ」

ドアの取っ手に手を掛けてみると、ドアも開いてしまった。そんな事をして
いると、サキがチェックアウトしていなくなってしまったと分かった彼が、
ホテルからあわててこっちへ走って来るのが見えた。
サキは「ヤバイ ! ど〜しよう ! 」と言いながらウロたえ、とっさに彼の車
のドアを開け、リヤシートの足元にうずくまった。

何も知らない彼は、乱暴にドアを開けて運転席へと乗り込んで来た。そして
大きな声で独り言を言った。

「ったく ! サキはどこへ行っちまったんだ ! 世話のやけるヤツだ !」

サキはうずくまったリヤシートの下で、ムッ ! としながらつぶやいた。

[ なによ ! 自分の事は棚に上げて、世話が焼けるだなんて ! ]

車のエンジンをかけて彼は走り出した。

[うわっ ! 走り出しちゃった。どうしよう、どこへ行くつもりなのかしら。
でもちょっとワクワクするなぁ。駅 ? 駅へ行くつもりなんだわ。]

サキは窓をそぉ〜っと見上げて見える風景からそう思った。

[ くくくっ♪ 駅なんか行ってもサキちゃんはいないもん。ここにいるし♪]

彼は焦っていた。このままサキを家に送り届けられないなんて事になれば、
最後に唯一残されたケジメすら付けられなくなってしまう。
すごい勢いで交差点を曲がる。サキはリヤシートで転がりそうになるのを、
必死で踏ん張っている。赤信号に引っかかると、彼はイライラしてまた独り言
を言う。

「サキ、俺から逃げてんのかぁ〜 ? 」(ここにいるけど・・・♪)
「だよなぁ、マダムのとこへ行ったと思ってるだろうし。」(違うの ?)
「やり直そうなんて今更言えないけど・・・」(言ってよ !)
「男の野望なんかよりサキの方が大切だって気がついた。」(ふぅ〜ん・・・)
「お、青になった。」(ズル〜ッ ! もう一声 !)

車は駅へと着いた。彼は車を投げ捨てるようにして駅舎へサキの事を探しに
行くが、どこを探してもサキの姿を見つける事は出来なかった。彼はしおれて
車に戻ってきた。大きなため息をつくと、彼は再びエンジンをかけ、あてど
なく車をゆっくりと走らせた。

「サキ、さよなら・・・結局、俺には何にも残らなかった。サキもマダムも、
 愛も野望も・・・サキ、せめてさよならの一言くらいお前の顔を見て言い
 たかったがな。」

いつしか彼は湾岸の国道を走っていた。サキと楽しく語らった海がキラキラと
光っていた。すると、彼の携帯が不意に鳴った。多分、マダムだろう・・・
彼は携帯の通話ボタンを押した。マダムの低く落ち着いた声が聞こえて来た。

「坊や、お疲れ様。後悔はしていないのね。何か言い訳ある ? フフフ・・・
 楽しかったわ。私が生きている世界では、あなたはとても生きて行けない
 人よ。でもそれで当たり前。あなたはもっとあなたらしく生きて行く事ね」

「マダム・・・まるであなたは最初からその事を分かっていて ?」

リアシートに転がっていたサキは、彼の「マダム」と言った一言にキレた。

「何がマダムよっ ! 」サキはガバッ ! とシートから跳ね起き、彼に言った

「その携帯、あたしに貸しなさい ! 」

突然リアシートから現れたサキを見て、彼は驚きブレーキを踏みつけた。
タイヤが耳に刺さるような悲鳴を立てて車は止まった。後続車からクラクショ
ンが鳴らされる。あわてて彼は路肩に車を寄せ、ウインカーを左に出した。
その間にサキは彼の手から彼の携帯を取り上げると、一気に携帯の向こう側に
いるマダムに物凄い剣幕でまくし立てる。

「もしもしっ ! マダムだか何なんだか知らないけどさぁ !
 どう言うつもりなのォ ! 遊びのつもり ? あなたのどうでもいい遊びで、
 彼の男としての純粋な気持ちを傷付けるなんて、止めてちょうだい ! 
 もしもあなたの手を借りる事で、彼が本当に思う通りの夢をかなえる事が出
 来るなら、あたしはいつでも喜んで彼から身を引くわ。
 でも、あなたにはそんな気持ちは最初から無いんでしょ ! どうなの !」

彼は物凄いサキの勢いを目の当たりにして、息を呑んだ。もともと確かに
サキは鼻っ柱が強い。しかし、今のサキはこれまで見た事の無い勢いであり、
野生すら感じさせる。そんなサキは携帯電話に鋭い爪を立て、マダムに噛み付
いている。

「・・・サキ・・・さん ? って言うのよねぇ。うふふふ・・・あなたの事は
 彼から時々聞いていたわ。あなたの言う通り、私にとって彼はチェスの駒の
 ようなものだわ。彼は自分自身の頭脳・眼力・分析力・そして行動力を過信
 しているのね。彼が私に近づいて来た目的は、初めから知っていたわ。
 あなたのようなカワイイ恋人がいる事もね。

 彼はとても純粋な人よ。だからそれを失くして欲しくなかった。私が住んで
 いる世界・・・それは一筋縄では行かなくてよ。だれだって骨のある男なら
 地位・名誉・財力、自分の思いのままに手に入れたいと思うわ。そしてお金
 のある人ならお金を使って、頭の切れる人なら頭を使って、すべてを我が物
 にしようと、どんな事でもするわ。

 でもね、それが何だって言うのかしら。そんなカードをすべてそろえたと言
 っても、それをいつまでも自分の手の中に持っていられる程、世の中は甘く
 無いの。カクエイのおじ様、ムネオの家の話ならあなたにも分かるでしょ ?
 何もかも失って、裸の身一つになった時、果たして誰が手を差し伸べてくれ
 るのか、誰が助けてくれるのかって事、彼には気がついて欲しいと言う思い
 もあったのよ。でもそんな事きれい事にしか聞こえないわね。

 そうよ、私はあなたから彼をだましとろうとしたメス猫よ。さあ、あなたは
 どうする ? 楽しいゲームの続き見せてもらえるかしら。ふふふ・・・」 

マダムの話を鼻息を荒げて聞いていたサキは、都合の良い話ばかりして !
そう思った。どの道、自分に都合の良いゲームをしただけの話であり、いずれ
にせよマダムと言う女に腹が立った。

「おあいにく様 ! マダムの愉快なゲームは、終わったの ! 
 つまんないラストシーンで悪かったわね、でもこれで全部終わり。
 彼は何もかも失くしたところでゲームオーバーよ。」

サキは自分からそんな事を口走りながら小さく震えた。

「んふふ・・そうなのかしら ? ・・・でもあなたがそう言うのならね。
 彼、かわいそうね。ちょっと彼に代わって頂けないかしら。」

マダムはサキの心の中を見透かしたような口調で言う。サキは「ふんっ !」と
ぶっきらぼうに携帯電話を彼に押し付けた。彼はそれを耳に当て、マダムに
言う。

「マダム・・・これもあなたのシナリオの内なんですか ? 」

彼の言葉を聞いたマダムはそれについて一言でかたずけた。

「ここから先の事は、サキさんのシナリオね。」

しかし、その後に何も言葉の出てこない彼に向けて言った。

「ベンツの KEY は返さなくていいわ。あなたはもっともっと男を磨かないと
 きっとサキさんのマリオネットになるわね。残念だわ、あなたのような人に
 私の傍にいて欲しかった・・・さぁ、サキさんの所へお帰りなさいな。」

「しかし・・・」

「何も心配はいらなくてよ。
 彼女、こんなひどい目にあわされてるのにもかかわらず、自分の事には何も
 触れなかったわ。あなたの事を守ろうとしただけ。大切にしてあげる事ね。
 そして最後にもう一つだけ・・・私の前に二度と現れたりしないで・・・
 さよなら・・・」

マダムはそれで電話を切った。
彼は自分がもくろんだ「男の野望」の足がかりにしようとした女の大きさに
身震いした。改めて自分の度量の小ささを知った。身の程知らずとはこの事
なのかと実感した。すると背中からサキの彼を呼ぶ声がした。

「で ? これからあなたはどうするつもり ? 終わったんでしょ ? 」

「で ? それよりか何でこんな所にサキがいるんだ ? 」

「何でって・・・そうそう、あたしかくれんぼしてたんだ。」

「かくれんぼって ? 独りでか ? 鬼もいないのに ?
 誰が見つけてくれるんだ ? 変なヤツだなぁ・・・」

「鬼はいるよ、目の前に。
 訳の分からない女にだまされてサキの事を捨てようとした青鬼がさ。」

「マダムの悪口は言うな ! それに誰が青鬼だって ? 」

「あーっ ! あの女の事かばうんだ ? へぇ〜そうなんだぁ〜 そこの鏡で
 自分の顔をご覧遊ばせ♪ マダムに嫌われて真っ青になった青鬼がいる」

そうサキに言われて彼はルームミラーに自分の顔を写して見た。確かにサキ
の言う通り、顔から血の気が引いて青い顔をした自分がそこには写っていた
すると彼はサキの事を振り返って、サキの顔をまじまじと見た。
サキの顔も目が充血して腫れぼったい顔をしている。

「サキだって目が充血して赤鬼になっているじゃないか。」

「えっ ? そ、そんな事ないもん ! 」

あわててソッポを向くサキに彼は真顔で続けた。

「もし仮に、俺たちに赤ん坊が出来たら、紫ン坊になるのかな ?」

「いやだぁ〜っ ! 紫の赤ん坊なんて・・・絵の具じゃあるまいし・・」

青鬼と赤鬼はお互いに顔を見合わせて笑った。
そして彼は再び真顔になってサキに言う。

「サキ、ごめんな。俺の自分勝手でサキをつらい目にあわせてしまった。
 とても許される事じゃない。ホントにごめん・・・」

サキはその事はもういいの、忘れようねと言おうとしたのだが、ここで
簡単に彼の事を許してしまう訳にはいかなかった。
男を甘やかすと「 ロクな事は無い」と実感していたからだ。

「反省してるの ? ふぅ〜ん。謝ればそれで済むんだ ? 男って楽ね。」

「そ、そう言う訳じゃないが・・・」

「あたしをこんな目に遭わせた代償は、高くつくわよ。覚悟できてる ?」

「仕方ないな、俺がまいた種だしな・・・」

「そう、それなら言うわ。素敵な時間のやり直しして ! 」

「えっ ? やり直しって、今からか ? 」

「そうよ♪ でも携帯電話はあたしが取り上げておく !」

そう言ってサキは彼の携帯電話を取り上げ、電源スイッチを切った。
そして自分の携帯電話の電源スイッチも切った。サキはニッ♪と笑い、

「あたしもあなたにあやまる。あなたの事を深く理解してあげられなかっ
 たから。ごめん・・・」

彼は何の事やら分からずに面食らった顔して黙っていた。
サキはそんな彼に微笑みながら言った。

「これで二人共、あいこだからね。折角ベンツももらった事だし・・・
 ドライブしようよ。行き先は決めない。どこまでも海を見ながら走り続け
 るの。昨夜の事もマダムの事も、仕事の事も何もかも忘れてさ♪」

彼にも異存はなかった。
そうか、そうするかとうなづき、彼はベンツのエンジンをかけた。
サキは彼の隣の席に座っていた。そして二人を乗せたベンツは、どこまでも
湾岸の国道を走り続けて行った。平井賢のあの曲が流れる中、サキと彼との
新しい旅立ちの日となった。夕凪にさざめく海は、まるで二人の新しい旅立
ちを祝福しているかのようだった・・・


Fin

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●あとがきにかえて

長きに渡り、最後まで読んで頂きありがとうございました。
このお話に出てくる「サキ」のキャラクターは、私がこんな女の子がいたら
楽しいだろうなぁ〜と言う気持ちで作り上げたものです。
読んでくれる人にもそれぞれの思いや感想があるように、書いている自分に
もまた、感情移入する所があり、皆さんのイメージに沿って進んだとは自分
でも思っていません。だだ私が自分の書きたいように書いたものです。
それはこのお話に挿入した中のいくつかのエピソードは、私の実体験を元に
書いたものなので、誰に何と言われようと、話を曲げる訳にはいかないので
した。(笑)

このイメージストーリーは、葉山小姫 嬢の出し物より、ダンスパートが終わ
って、ベットに入った所のシーンから、もずさんがイメージを膨らませて書
いているものであり、実際の人物・ロケーション・ましてや葉山さんの話を
書いている訳ではありません。葉山小姫さんのベットがすごく良かったので
もずさんが勝手な妄想を書いているだけの事です。あしからず・・・




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