もずのわくわく劇場日記 No.46


2002年 6月 15日 (土) 新宿ニューアート

「SNAシリーズ Vol. 7」

LAST SCENE ...
          [ 加納 藺 嬢・ラストレポート編 ]


本日の香盤 1.仁科ちあき 2.?? 3.加納藺 4.冴嶋みどり 5.EVA 6.渡辺理緒 7.葉山小姫



[ 急げっ ! ]

新宿駅の改札をあわただしく抜け、人ごみの中を私は走っていた。
焦る気持ちと裏腹に、時間は刻々と過ぎていく。そんな私が新宿ニューアートの階段を下り、場内への扉を開けたのは、おりしも加納藺嬢のラストステージが上演されているさなかであった。

辛うじて加納藺嬢のステージに駆けつけ、汗だくのままオープンセサミ ! 扉を開けるとそこは、すでに尋常な雰囲気ではなかった。足の置き場が無い、中へ、いや、物音一つ立てられる状況ではなく、場内の暗がりに身を潜めるのがやっとと言う状況だった。

場内の暗さにようやく目が慣れてきた。周囲を見回せば、足元には無数の花束、出演されている踊り子さん達も身動き一つせずに、ほぼ全員そろってステージを見つめていた。ここまで走って来たのと、場内、そしてステージで展開されている加納藺嬢の熱気とで、汗が自分の背中を伝う・・・

延々と息を止めて物凄い集中力で、場内に存在するすべてのものが、この空気を形成している。いや、殺気立っていると表現すれば良いのだろうか・・・ 私はかつてこんなに張り詰めた緊張感を持って観劇に望んだ事は、一度も無かった。狭い場内の熱気で溶け出してしまうような環境なのに、感覚的には朝モヤの包む森の中に漂う神聖な霊気が、ステージ・客席のその両方へ流れ込んで来るような感覚である。


[ 踊り子・加納藺 ]

おびただしい照明を全身に浴びて、加納藺は盆にはべっていた。すでに彼女は朝露の降りた花のように、汗が身体から噴き出している。長い髪が首に、肩に、背中にと張り付いている。しかし、そのような不快感すら今の加納藺には感じ得ない事だろう。

崩れ落ちてしまいそうな心の弱さを、「ステージこそ我が命」「自分の生きる場所」と思い定めた鋼(はがね)のような踊り子としての強靭な "意志" が、それを押さえ込んでいるのだ。

加納藺・・・

師匠・仙葉由季女史に自ら求めて師事、踊り子となる。厳しいレッスンも自らを磨く為のチカラとし、気力を振り絞って身体にムチ打ち、2000年 8月22日 浅草ロック座の晴れやかな桧舞台に立った。その日以来、20回の劇場公演、そして踊り子として 662日目の今日・・・
加納藺は今、踊り子としての楽日を迎えている。

ジリジリと肌を焼くようなライトの中、加納藺は身体を折り曲げ、ベットを演じている。一つ一つの動きはいつものステージより、輪郭が強調されているようだ。まったりスゥィートなベットシーンと形容するよりも、腕の動き、ひじの曲げ方、足の伸ばし方、すべてが確実に自分の意識のコントロール下で、的確な制御をされている。SNA の盆に汗と共に刻み込んで行くベット演技である。

しかし、理性と意識のハザマで揺れ動き、暴走する感情は冷静であれと思う加納藺のリミットを唐突に超えて来るのだった。 「うぅ・・・」咽(のど)を引き絞るようなあからさまな声が場内に響いては、大音響のBGM にかき消される。そのたびに加納藺は " 意識 " のワイヤーで、きつく自らの感情を締め上げている。

りんちゃん、良く頑張ったね。本当に良く頑張って来たと思うよ。そう言ってあげたい。場内の誰もがそうした想いになる。同じ踊り子の仲間たちは客席で立たずみ、人差し指を伸ばしてあふれて来る涙を何度もぬぐっている。

加納藺は盆から身体を起こし、こわばる顔を一生懸命笑顔に変えている。場内から大きな拍手が巻き起こる。衣装を拾い上げる・・・加納藺は舞台へ戻っていく・・・ 踊り子・加納藺でいられる時間が残り少なくなって行く・・・照明が消される・・・拍手は続いている・・・

いよいよファイナルオープンショーか。きっと誰もが胸の中でそうつぶやいたに違いない。応援団のみなは、それぞれのポジションからタンバリンを引き寄せ、ラストシーンは派手ににぎやかに加納藺嬢を笑って送り出してあげようとスタンバイに入った。

そしていよいよ場内にBGMとアナウンスが入った。身構えるタンバリンさん達。照明がゆっくりと光量を上げてく。しずかな BGM が語りかけるように流れている。そしてカミテから加納藺が現れた。今週ずっと着ている黒の体にフィットしたシックなワンピースの衣装。肩にかかるボリューム感のあるロングヘアー。足首まで包み込む黒いハイヒール・・・

一歩一歩、足先の感覚を確かめるようにステージの中央へ歩いて行く加納藺。観客はもとより、この日のために編成された合同応援団の誰もが、意表を突かれて唖然となる。

加納藺は踊り子として、自分のフィナーレを飾る曲として、長渕剛の一曲を自分の意思で選んだのだった。果たしてこの一曲に、加納藺のどんな「想い」が秘められているのだろうか・・・ それはきっと彼女にしか分からない大切な何かが埋め込まれているに違いない。

曲の歌詞に聞き耳を立てて見るが、歌詞の内容はテロやアフガンについて、長渕剛が思いのたけを熱く語りかける内容の曲であった。加納藺の心を動かしたこの曲について、思うところは、もしかしたら加納藺は日頃この曲を聴き、過去・現在・未来の自分に重ね合わせ、自分自身への応援歌としてあえてこの曲をチョイスしたのかもしれない。

応援団はタンバリンを置き、静かに加納藺を見守っている。そうした中で加納藺は、花道を時間をかけて渡り、盆へとたどり着いた。涙にぬれていた瞳は、晴れやかにしっかりとして客席を見渡している。

そして盆の中心へ立つと、両手を大きく広げ大の字型になると、スポットを全身で受け止めた。拍手が足元から沸き立つように打たれた。その感触をしみじみ味わいながら、まるでベットを踊るようなゆっくりとした動きで盆の上に座り込む。盆まわりにいるお客へ手を差し伸べ、何人もの人と握手を重ねている。次々に客席から手が伸びて来る。

ひとしきりして、加納藺は座ったままシモテ側を向き、両腕をまわし体を抱きしめた。そのままあごを上げ、天を仰ぎ、これまでの踊り子としての日々を回顧するように、しばらくそのままでいた。語りかけるBGMとあいまって、その場にいるすべての人の心が、切なく、熱く震えた。

加納藺は自分自身に満足したように、ソロソロと立ち上がろうとした時、ファン達から、競演の踊り子達から、数え切れないほどの心のこもった花束がプレゼントされた。半ベソをかいて一つ一つの花束を受け取り、そしてようやく立ち上がり、今まで自分のすべてを賭けて踊っていたステージをいとおしそうに見つめながら、ステージへと向かって歩き出した。

BGM もエンディングへと移っている。拍手が、声援が鳴り止まない。何もかもが、大きなうねりとなって加納藺の元へと押し寄せて行く・・・

静かにステージへたどりついた加納藺は、持ち切れない程の花束を抱え、客席へ振り向くとしっかりとした声で、ありがとうございました・・・と声をあげ、深々と一礼をする。ステージの両脇から幕が、音も立てずに徐々に引かれて行き、やがて客席へ感謝の想いとともに手を振る加納藺の姿を覆い隠し始め、やがて完全に閉じられてしまった。

そして 2002年 6月15日(土)の楽日をまっとうし、加納藺はここ新宿ニューアートのステージにおいて、多くのファンや踊り子達に惜しまれつつ見送られ、662日間の踊り子としての軌跡に幕を引いたのだった・・・


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●もずさんより

思い返せば、加納藺さんがデビューした浅草の時、ステージ見ているんです。やっぱり思い出深いのは仙葉由季さん率いるチームショー「Neked Vision」ですね。あのメンバーの中で、堂々と踊っていた加納藺さんは、他のメンバーに何の遜色も無く、すばらしいダンスパフォーマンスを披露していました。

そして、まさかこんなに早く踊り子としての楽日を迎える事になるとは考えても見ませんでした。しかしながら、加納藺ラストステージを飾るにふさわしい、豪華な競演の踊り子さん達に見送られての幕引き・・・とても感慨深いものがありました。

私の稚拙な文章から果たして「加納藺」さんの踊り子像が見えたかどうか分かりませんが、どうしても書いて置きたかったと言うのと、加納藺応援隊としてこれまで頑張って来られた私の友達へのねぎらいの意味もあります。加納藺さん、応援隊の皆様本当にご苦労様でした。

また、ラストステージを終えた加納藺さんに、ロビーで一言だけでしたが、お疲れ様でしたと言ってあげられた事は、とても良かったなと思いました。加納藺さんはその時、私の顔を見て、ありがとうございましたと言いながら、さわやかな微笑みを投げかけてくれました。つくづく、これからの加納藺さんに幸多かれと祈る私です。



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