もずのわくわく劇場日記 No.54


2002年 8月18日 (日) 川崎ロック

「 A & R Ensemble Rose 編 」



ensemble-rose [ プロローグ ]


 場内セットの設営がスタンバイ出来ると、照明が徐々にその
 光量を落として行き、開演を告げるブザーが鳴った。すると
 お馴染みのメロディーが流れる・・・

 「ご場内のお客様にご案内申し上げます。場内は禁煙となっ
  ておりますので・・・」曲がフェイドアウトする・・・
 
 ステージはこれより A & R Ensenble Rose の登場です。
 登場の際には盛大な拍手をもってお迎え下さい・・・ 

ステージ上は暗幕で覆われている。すると ! ギュイ〜ンと言うSE がフェイドイン。
パパーン♪ と言うファンファーレが短く耳に突き刺さる ! ズンチャカズンチャカ♪
思わせ振りなプロローグでのスタート。ロッキーのサントラからのようだ。


[ 第一幕 ・ 第一景 ]

カクテルライトが闇の場内空間をかき回す。そしてステージの暗幕に一筋の光明・・・
ピンスポットが一直線に刺し込み、BGM の終わりと共にスッと消えた。
音もなく暗幕は左右に引き分かれると、ステージの様子が見えて来た。

カミテ、シモテの両サイドの床の上から白色のライトが一基づつ、見上げるように点灯
し、ステージ中央の A & R の姿を照らしている。そして視線をズームインして行くと、
A & R は、ステージ中央で寄り添い合うように、向って左側に黒いロングドレスを着た
渡辺理緒がスク ! っと立ち、その右どなりに同じデザインの、真っ赤なドレスを着た
新庄愛が、渡辺理緒に優しく付き添うかのようなスタイルで、ヒザをついて並び、二人
とも FIX している。絵画のような美しい構図。

ス〜 っと吸い込むようなバンドネオンの音色・・・ タンゴアルゼンチーノ・・・?
白色のライティングにスモーク、「紗」のかかったスクリーンのようなステージの風景
ひなびた感じのタンゴ。その中にくっきりと浮き立つ渡辺理緒と新庄愛。
ゆっくりとステージへと広がり踊り始める。

すると急に曲調が変わり、8BEET のリズムをドラムが叩き、ギターがベンチャーズバリ
のストロークを流す。ロックンロール調になったタンゴの曲に反応して、二人はそれぞ
れの長いドレスのスソを振り乱し、軽快な振りでターンを繰り返し、ステップを踏む。

場内の壁に貼り付く様にして立つタンバリン達の刻む金属音が、渡辺理緒と新庄愛に
もっと踊れ ! 激しく踊れと二人をせき立てている。

ノースリーブのドレス。別体になった両腕の肩下からシースルーの生地で、手先に向か
って広がって行く形の袖を、ヒラヒラとさせて踊るさまは、あたかも二匹のアゲハ蝶が
生命を燃やし、熱くからみ合いながら舞うような姿だ。
渡辺理緒・新庄愛、二人のダンスへの情熱を伝え、感じさせてくれる一幕である。


[ 第二景 ]

スパッと終わった BGM と同時にポーズを短く決めた二人。間髪を入れずにBGMが、始
まると渡辺理緒がステージに残り、新庄愛はカミテへと素早く消えた。
悲鳴をあげるようなサックスの音、ゆっくりと天井から降りて来るブラインド。
暗幕が左右からわずかに引き寄せられ、ブラインドのふちを隠し、ブラインドを透かし
てしか見えないステージ。

その中で渡辺理緒はシャドウの入ったピンスポを浴び、身をくねらせるようにして黒の
ドレスを脱ぎ始めた。ブラインドが閉まる。また開く・・・
渡辺理緒はブラインドが閉じでいる時も腰を回し、腕を折り曲げ挑発的なダンスをずっと
続けている。隠されると見たい。見ていると隠される・・・座席から身を乗り出し、前か
がみになってステージを注視するお客達。ブラインドに指を差し入れて外を除き見る。
見られている事に気がついたのか !?

どうやらブラインドは、深夜のとあるビルの一室。その部屋の中で着替えている女。
観劇している私達は・・・ その部屋よりも高い隣のビルから、部屋を監視している何者
かのようである。そして、ブラインドを透かして着替える女を見ている私達の視線・・
それが渡辺理緒にあてられていたピンスポ。

私達はいつの間にか、ステージで繰り広げられている、ストーリーの中の一役を演じて
いる事になっていたのだ。あなたはその事にお気づきであったろうか。フフフフ・・・
BGM も途中でフェイドアウトする。渡辺理緒の短い脱ぎのシーンを終えてブラインドが
天井に引き寄せられて行く。衣装を抱えてカミテへと消える渡辺理緒。暗転・・・


[ 第三景 ]

その中をシモテのソデで待ち構えていた新庄愛が、物陰から飛び出すマウスの素早さで
舞台中央へイスを持ってセットし、客席に正面を向いて座り、イスの下を覗き込むような
形で上半身を折り曲げ、両手はイスの脚を握って、準備完了。


ダン・ダダダン ! ダン・ダダ・ダカダン ! ドラムの響き・・・
スゥ〜 と膨らんで行くように灯る照明。イスの上で身をこごめている新庄愛が浮かび
上がる。黒のフェイクレザーのパンツ、黒のシースルーのシャツ、同じく黒のフェイク
レザーのポリスキャップは真珠で縁取られ、ポリスマークはドクロ・・・

♪Give me a 〜 ! 唐突に BGM のシャウト ! ズドドド・・・激しい Beet & Rythm !

新庄愛はシャウトに合わせ、レスポンス良く上半身を起しながらつかんでいたイスの足
を前方へ引き寄せると、大きく開いた自分の足の間を後ろから通し、飛び出して来た所
を、イスの背もたれを床に着け軸にして、3、4回クルクルと回し、スパっと止めると、
イスを立て直し、ドン ! とその場に置いた。

激しいリズムにシンクロさせる稲妻が光る如き、過激なダンスで盆へと踊りながら出て
くる。スポットを一身に浴びる新庄愛。シースルーのシャツの下に黒のエナメルの下着
が、まぶしく透けて見える。

BGM 、おぉっ ! この曲は渡辺理緒の演目「扇」での二曲目のナンバーではないか !
渡辺理緒ファン、特にタンバリンをやっている人は異常に盛り上がる。

盆の上で注目を集めながら踊る新庄愛の後ろ、ステージの方へ視線を向けると、シモテ
より、渡辺理緒が新庄愛と同じ黒いポリスの衣装を着て登場。

先ほど新庄愛が舞台に残して来たイスにカミテを向いて横に座り、客席を見渡すように
してからダンスに合流する。立ち上がった渡辺理緒は、イスの背後へ回り、右足のヒザ
を伸ばしたままで、イスの背もたれをアーチを描くようにかわすハイキック。
イスにまとわり付く様な振り付けのワンシーンを踊ったのち、盆からステージへ戻って
来た新庄愛と、物凄い早いテンポのコンビネーションダンス ! 

まさにコンビネーションダンス ! ジャンプのタイミング、腕の曲げ伸ばし、ターンの
鋭さ ! まるで二人のうち、どちらか一人は鏡に映っているダミーなんじゃないかと錯覚
する程の完成度。渡辺理緒・新庄愛ならではの賞賛に値うべき絶妙のアクションダンス !
手に汗を握るとはこの事か ! 圧巻 !

二人とも舞台の中央へ戻ったところでポーズを決め、暗転する中、一度二人共カミテへ
消えて、新庄愛だけが再びそっと出て完全消灯する。


[ 第四景 ]

真っ暗になった場内に、ワウワウのエフェクトのかかったギターサウンドがリフを短く
入れるとハイハットシンバルが、チィ・チィ・チィ・チィと16分音符を刻みながら続く。
高い音階のストリングスがバッキングに回ると、ベースが怪しげなリフを奏でる。
そんな時不意に、照明ではない別のビーム光線のような光が、ステージ上から水平に客席
側のセンターへと照射された ! うっ ! 真っ暗な中に突然一筋の光を浴びせかけられて、
客席の誰もが一瞬目を固く閉じ、幻惑する !

なんだ !? 何の光なんだ !? すぐに消された光源を、目に焼きついた残像を頼りにたど
るとそれは、舞台の中央のイスの上にドッカ ! と座っている新庄愛から発射されたもの
であった。一呼吸あって、再び閃光が川崎ロックの場内の、深い闇を鋭く切り裂く !
今度はカミテ方向へと斜めに光が走り、スッ ! とまた消えた。同様にシモテ方向にも。
怪しげな、探ぐるような BGM が続いている・・・

イスから立ち上がった新庄愛は、今度は右手に持っているビームライトを点けたまま、
コツコツと盆に向かって歩き出し、右から左へ、左から右へと水平に振り向ける。

そ、そうか ! 先ほどのブラインドのシーン、部屋の中で着替える女・・・ 
視線のスナイパーを探すために、ポリスがビル内を見回りに歩いていると言う設定か !
だとしたら客席にいる我々は見つからないように、物陰に隠れ新庄愛のビームライトの
光に照らし出されないよう、身をかわさなくてはならない事になる・・・

新庄愛はビームライトが照らし出した方向に顔を振り向け、執拗に捜査を続けながら、
サザンクロスを描くようにして、ビーム光線をランダムに振り回しながら舞台へ戻り、
そして異常なし ! と思ったのかシモテへと消えた。
我々はポリスをうまくやり過ごせたようだ。


[ 第二幕 ・ 第五景 ]

BGM が折り重なるようにして曲調が変わり、シンコペーションの軽く跳ねる様なドラム
そのリズムに短くカットするかの如くリフを入れてくるアコースティックピアノには、
エコーが効いている。静かに・・・静かにその曲は流れて来た。

ドライアイスのスモークが床の上をフワフワと這って来る様な、そんな音景・・・

夢か幻なのか、幻想的なムードに包み込まれる川崎ロック・・・
ステージ上にはシモテサイドに白いツイタテ。2m×1m位のサイズに平ゴムのたて張り
そして、カミテサイドにも白いツイタテがある。こちらは白のロールアップカーテンと
言う作りだ。双方が内向きに、ハの字型に立てられている。

フローティングモードと形容したら良いのだろうか・・・
無機質な音のない四次元空間に漂う得体の知れないものが、そんな空間に揺らめく・・

その時、シモテのツイタテの中から、白い指先がヌゥ〜とのぞく。だがそれはすぐに
ツイタテの中に消えた。間を置いて、今度は素足がヒザの所まで、ツイタテのゴムの間
から溶け出すようにジワリと突き出て来た。それはしばらくその場にとどまり、また
消えて行く・・・

一体何なのだろうと思っている時、平ゴムがパクっと引き分けられ、白く細い腕、きゃ
しゃな肩、横向きに流れ出すかのように、何者かが現れた。顔を見ると無機質・無表情
な、白い仮面の女だ。生命体と言うには生気がない、物体と言うには生き物の様だ・・
ともかくこの世の物とは思えない空虚な、女の形をしたものとしか言えない。

それは闇の中を漂うように、さまようようにただ、ただ、闇雲に舞台空間をゆっくりと
歩きまわっている。深夜の高層ビル、何もかもが眠りに就き、人気の無くなった空間は
そこに住み着く、「もののけ」達の活動の場なのかも知れない・・・

ビーズのようにキラキラと光る一枚の布を、巧みに体に巻きつけ、ショートドレスの様
にしている。仮面をつけているが渡辺理緒である。その仮面は泣いているようにも見え、
また、微笑しているようにも見え、何を思っているのか読み取る事が出来ない微妙な
表情である。前髪をたらし、頭には身にまとっている布と同じもので、バンダナを巻く
様にしているので、仮面が顔そのものに見える。

そして舞台上を徘徊して渡辺理緒は消え、すると入れ替わるように今度はカミテのツイ
タテのロールアップカーテンがスルスルと巻き上げられると、漠然とそこにたたずむ
新庄愛・・・やはり渡辺理緒同様のスタイル。
先のものと同じように、同じ姿で、微妙に表情に違いのある白い仮面をつけている。
そして、ステージ上をウロウロと徘徊する。

するとまた新庄愛が消え、再び渡辺理緒が現れるとステージ中央辺りでさりげない動き
と、その時 ! シモテのツイタテからまた足が・・・
しかも、今度は天井へ向けて足が折れ曲がって出て来た。どうやら逆立ちをするように
して、足を突き出しているようだ。その足が消えると、やはり腕・肩・体とツイタテの
ゴムを分けてもう一人の「もののけ」が現れる。新庄愛であった。

二人になった「もののけ」達は、それぞれにさまよい歩き、舞台中央で交錯するように
入れ替わり立代わりしながら、「能」を舞うように、右手を肩の位置で前方へと真っ
直ぐ伸ばすと、前後・縦列になり、花道から盆へ向かい、盆にたどり着くと、お互いに
向き合い、盆の天井に開演前に設置された、布から下がるテグスの糸を、それぞれに
引いた。

すると天井からハラハラと薄ピンクの布が降りて、筒状になって二人をその中へと飲み
込んで行ったのだった・・・


[ 第六景 ]

ヴェールの布の中で、二人は見つめ合う。新庄愛が渡辺理緒の衣に手をかけ、そっと
衣装を緩める。渡辺理緒の肩からナチュラルに衣装がすべり落ちる。そして今度は
渡辺理緒が新庄愛の衣装に手を掛け、同じように新庄愛の衣装を床に落とす。
そして何もまとわぬ、何も飾らぬ姿になった。新庄愛が床の衣装を拾い、まとめあげ
るとステージへと滑らせるように放り投げる。

淡いピンクの筒の中で体を寄せ合い、お互いの存在を確かめ合う二人・・・
陽炎の揺らめき立つような、その不思議な空間は二人だけのものとなった。
アコースチックピアノが、その筒の空間の外で四分音符を刻み、Sun set Love〜♪
女性ヴォーカルが、耳に心地良くそして切なく、歌いあげる。

シンプルな編成のバラード。BGM を聴きながら、新庄愛と渡辺理緒のヴィジュアルを
見ていると、何故だか胸に熱いものが込み上げて来た。そして今回のテーマがおぼろ
気に見えて来たような気がする。従業員さんがクーラーのスイッチを切った。

新庄愛と渡辺理緒は、心が通い合ったのか、お互いに仮面をはずし、喜怒哀楽のある
血の通った本来の人としてあるべき、姿になった。曲のエンディングに合わせる様に
して、いたわり合うようにそっと抱きしめ合う二人。心の中に横たわる湖に波紋が広
がり、胸を打たれた客席から拍手が沸きあがる・・・ それは草原の風に吹かれる、
草のざわめきの音にも似た拍手だった。


[ 第七景 ]

BGM は変わり、ナチュラルシンセサイザーのピュアなメロディーとなり、今まで以上
に壮大なスケール感のあるものとなった。渡辺理緒と新庄愛は筒の中で盆の床に座り
込み、オーロラのように二人を包み込んでいた布に手を伸ばし、ぐっとつかむと一気
にそれを引き下ろした。

オーロラは一瞬ピン ! と天井と二人の手の中で張り詰め、ふわりと二人のもとへ舞い
落ちた。雲を吹き払い、快晴の空が大きく広がるように鮮明に、渡辺理緒と新庄愛の
姿が我々の目前に浮き上がった。

二人は現実の世界に戻って来たのだろう。オーロラはただの一枚の布となり、二人は
それをもてあそぶようにして、戻って来れた喜びを体中で表現し、新庄愛は布を背中
越しに持ち、頭上高く広げるとステージへ一歩、二歩と歩み出す。渡辺理緒は盆の上
で座ったまま、新庄愛の頭上高く広がる布を平に直している。

新庄愛がステージへとたどり着く。広げられた布はとても大きく長く、盆のからステ
ージまで敷き詰められた、じゅうたんのように見える。
新庄愛は振り返り、盆の上にいる渡辺理緒へ「さぁ、早く ! 渡っておいでよ !」と
言うように、渡辺理緒をステージへといざなう。

そしてここでステージの上で新庄愛、盆の上で渡辺理緒、二人のダブルポーズ。
四つんばいになって、片足を天井高く突き上げた ! 渡辺理緒は頭をシモテ側へ、
新庄愛は頭をカミテ側へ・・・ 込み上げて来る拍手 !

渡辺理緒はポーズを崩し、敷いてある布を拾い上げ、それをたぐり寄せながらステー
ジへと戻って行く。するとステージへ戻った渡辺理緒は、待っていた新庄愛と共に、
先ほど出てきたツイタテの、左右の内側のワクへたぐり寄せて来た布の一辺を、それ
ぞれ中央に緩やかなカーブを描くように貼り付け、その内側から左に渡辺理緒、右に
新庄愛。両手をサイドから大きく広げ、頭上高く伸ばし、ポーズを決めた !
そこへカミテ側から ! シュルシュル〜 パッ ! ハラハラハラ・・・・

寸分の狂いもなく、桜の花びらが渡辺理緒と新庄愛の上へと舞い降りた。
光輝くステージの上、 " A & R ENSEMBLE ROSE " チームショーは桜吹雪の中、押し
寄せる津波のごとき拍手と喝采と共に終了した。
晴れやかな渡辺理緒、新庄愛の二人の顔が、深く胸に染みたチームショーだった。


[ エピローグ ]

「もののけ」の正体・・・ それは・・・ 冥界からやって来た想念・・・
はたまた、この世に幾年生ける人の、求めて止まない形のない、幾千もの心の愛が、
遥かな時空を越えてこの場所に集い、作り上げた幻なのか・・それは私にも分らない。

がしかし、何処からともなく現れた二人の「もののけ」の魂は、汚れ多き世にあっても
変わる事なきピュアな人の心の、「愛の姿」と言うべき偶像ではなかったろうか。
金・地位・名誉・・・ それらの物をどれほど持ち合わせていたとしても、持ち合わ
せていなくとも、「愛」は誰にでも平等にまぶしく降り注ぐ。

ただ、降り注がれた「愛」をどれほど温められるか、はぐくんでいけるのか、それに
よってもたらされる「愛」の恵みは、おのずと違って来るのだ。

何も持たない貧しき人々よ、嘆いてはならない。「愛」は生きて行く力になるだろう。
何もかも持ち合わせている人々よ、おごり高ぶる事なかれ。「愛」は何物にも変え難い
心貧しき人々よ、今君達に「愛」は見えるか・・・



                    終わり・・・



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