もずのわくわく劇場日記 No.54 「 A & R Ensemble Rose 編 」 ![]() 場内セットの設営がスタンバイ出来ると、照明が徐々にその 光量を落として行き、開演を告げるブザーが鳴った。すると お馴染みのメロディーが流れる・・・ 「ご場内のお客様にご案内申し上げます。場内は禁煙となっ ておりますので・・・」曲がフェイドアウトする・・・ ステージはこれより A & R Ensenble Rose の登場です。 登場の際には盛大な拍手をもってお迎え下さい・・・ ステージ上は暗幕で覆われている。すると ! ギュイ〜ンと言うSE がフェイドイン。 パパーン♪ と言うファンファーレが短く耳に突き刺さる ! ズンチャカズンチャカ♪ 思わせ振りなプロローグでのスタート。ロッキーのサントラからのようだ。 [ 第一幕 ・ 第一景 ] カクテルライトが闇の場内空間をかき回す。そしてステージの暗幕に一筋の光明・・・ ピンスポットが一直線に刺し込み、BGM の終わりと共にスッと消えた。 音もなく暗幕は左右に引き分かれると、ステージの様子が見えて来た。 カミテ、シモテの両サイドの床の上から白色のライトが一基づつ、見上げるように点灯 し、ステージ中央の A & R の姿を照らしている。そして視線をズームインして行くと、 A & R は、ステージ中央で寄り添い合うように、向って左側に黒いロングドレスを着た 渡辺理緒がスク ! っと立ち、その右どなりに同じデザインの、真っ赤なドレスを着た 新庄愛が、渡辺理緒に優しく付き添うかのようなスタイルで、ヒザをついて並び、二人 とも FIX している。絵画のような美しい構図。 ス〜 っと吸い込むようなバンドネオンの音色・・・ タンゴアルゼンチーノ・・・? 白色のライティングにスモーク、「紗」のかかったスクリーンのようなステージの風景 ひなびた感じのタンゴ。その中にくっきりと浮き立つ渡辺理緒と新庄愛。 ゆっくりとステージへと広がり踊り始める。 すると急に曲調が変わり、8BEET のリズムをドラムが叩き、ギターがベンチャーズバリ のストロークを流す。ロックンロール調になったタンゴの曲に反応して、二人はそれぞ れの長いドレスのスソを振り乱し、軽快な振りでターンを繰り返し、ステップを踏む。 場内の壁に貼り付く様にして立つタンバリン達の刻む金属音が、渡辺理緒と新庄愛に もっと踊れ ! 激しく踊れと二人をせき立てている。 ノースリーブのドレス。別体になった両腕の肩下からシースルーの生地で、手先に向か って広がって行く形の袖を、ヒラヒラとさせて踊るさまは、あたかも二匹のアゲハ蝶が 生命を燃やし、熱くからみ合いながら舞うような姿だ。 渡辺理緒・新庄愛、二人のダンスへの情熱を伝え、感じさせてくれる一幕である。 [ 第二景 ] スパッと終わった BGM と同時にポーズを短く決めた二人。間髪を入れずにBGMが、始 まると渡辺理緒がステージに残り、新庄愛はカミテへと素早く消えた。 悲鳴をあげるようなサックスの音、ゆっくりと天井から降りて来るブラインド。 暗幕が左右からわずかに引き寄せられ、ブラインドのふちを隠し、ブラインドを透かし てしか見えないステージ。 その中で渡辺理緒はシャドウの入ったピンスポを浴び、身をくねらせるようにして黒の ドレスを脱ぎ始めた。ブラインドが閉まる。また開く・・・ 渡辺理緒はブラインドが閉じでいる時も腰を回し、腕を折り曲げ挑発的なダンスをずっと 続けている。隠されると見たい。見ていると隠される・・・座席から身を乗り出し、前か がみになってステージを注視するお客達。ブラインドに指を差し入れて外を除き見る。 見られている事に気がついたのか !? どうやらブラインドは、深夜のとあるビルの一室。その部屋の中で着替えている女。 観劇している私達は・・・ その部屋よりも高い隣のビルから、部屋を監視している何者 かのようである。そして、ブラインドを透かして着替える女を見ている私達の視線・・ それが渡辺理緒にあてられていたピンスポ。 私達はいつの間にか、ステージで繰り広げられている、ストーリーの中の一役を演じて いる事になっていたのだ。あなたはその事にお気づきであったろうか。フフフフ・・・ BGM も途中でフェイドアウトする。渡辺理緒の短い脱ぎのシーンを終えてブラインドが 天井に引き寄せられて行く。衣装を抱えてカミテへと消える渡辺理緒。暗転・・・ [ 第三景 ] その中をシモテのソデで待ち構えていた新庄愛が、物陰から飛び出すマウスの素早さで 舞台中央へイスを持ってセットし、客席に正面を向いて座り、イスの下を覗き込むような 形で上半身を折り曲げ、両手はイスの脚を握って、準備完了。 ダン・ダダダン ! ダン・ダダ・ダカダン ! ドラムの響き・・・ スゥ〜 と膨らんで行くように灯る照明。イスの上で身をこごめている新庄愛が浮かび 上がる。黒のフェイクレザーのパンツ、黒のシースルーのシャツ、同じく黒のフェイク レザーのポリスキャップは真珠で縁取られ、ポリスマークはドクロ・・・ ♪Give me a 〜 ! 唐突に BGM のシャウト ! ズドドド・・・激しい Beet & Rythm ! 新庄愛はシャウトに合わせ、レスポンス良く上半身を起しながらつかんでいたイスの足 を前方へ引き寄せると、大きく開いた自分の足の間を後ろから通し、飛び出して来た所 を、イスの背もたれを床に着け軸にして、3、4回クルクルと回し、スパっと止めると、 イスを立て直し、ドン ! とその場に置いた。 激しいリズムにシンクロさせる稲妻が光る如き、過激なダンスで盆へと踊りながら出て くる。スポットを一身に浴びる新庄愛。シースルーのシャツの下に黒のエナメルの下着 が、まぶしく透けて見える。 BGM 、おぉっ ! この曲は渡辺理緒の演目「扇」での二曲目のナンバーではないか ! 渡辺理緒ファン、特にタンバリンをやっている人は異常に盛り上がる。 盆の上で注目を集めながら踊る新庄愛の後ろ、ステージの方へ視線を向けると、シモテ より、渡辺理緒が新庄愛と同じ黒いポリスの衣装を着て登場。 先ほど新庄愛が舞台に残して来たイスにカミテを向いて横に座り、客席を見渡すように してからダンスに合流する。立ち上がった渡辺理緒は、イスの背後へ回り、右足のヒザ を伸ばしたままで、イスの背もたれをアーチを描くようにかわすハイキック。 イスにまとわり付く様な振り付けのワンシーンを踊ったのち、盆からステージへ戻って 来た新庄愛と、物凄い早いテンポのコンビネーションダンス ! まさにコンビネーションダンス ! ジャンプのタイミング、腕の曲げ伸ばし、ターンの 鋭さ ! まるで二人のうち、どちらか一人は鏡に映っているダミーなんじゃないかと錯覚 する程の完成度。渡辺理緒・新庄愛ならではの賞賛に値うべき絶妙のアクションダンス ! 手に汗を握るとはこの事か ! 圧巻 ! 二人とも舞台の中央へ戻ったところでポーズを決め、暗転する中、一度二人共カミテへ 消えて、新庄愛だけが再びそっと出て完全消灯する。 [ 第四景 ] 真っ暗になった場内に、ワウワウのエフェクトのかかったギターサウンドがリフを短く 入れるとハイハットシンバルが、チィ・チィ・チィ・チィと16分音符を刻みながら続く。 高い音階のストリングスがバッキングに回ると、ベースが怪しげなリフを奏でる。 そんな時不意に、照明ではない別のビーム光線のような光が、ステージ上から水平に客席 側のセンターへと照射された ! うっ ! 真っ暗な中に突然一筋の光を浴びせかけられて、 客席の誰もが一瞬目を固く閉じ、幻惑する ! なんだ !? 何の光なんだ !? すぐに消された光源を、目に焼きついた残像を頼りにたど るとそれは、舞台の中央のイスの上にドッカ ! と座っている新庄愛から発射されたもの であった。一呼吸あって、再び閃光が川崎ロックの場内の、深い闇を鋭く切り裂く ! 今度はカミテ方向へと斜めに光が走り、スッ ! とまた消えた。同様にシモテ方向にも。 怪しげな、探ぐるような BGM が続いている・・・ イスから立ち上がった新庄愛は、今度は右手に持っているビームライトを点けたまま、 コツコツと盆に向かって歩き出し、右から左へ、左から右へと水平に振り向ける。 そ、そうか ! 先ほどのブラインドのシーン、部屋の中で着替える女・・・ 視線のスナイパーを探すために、ポリスがビル内を見回りに歩いていると言う設定か ! だとしたら客席にいる我々は見つからないように、物陰に隠れ新庄愛のビームライトの 光に照らし出されないよう、身をかわさなくてはならない事になる・・・ 新庄愛はビームライトが照らし出した方向に顔を振り向け、執拗に捜査を続けながら、 サザンクロスを描くようにして、ビーム光線をランダムに振り回しながら舞台へ戻り、 そして異常なし ! と思ったのかシモテへと消えた。 我々はポリスをうまくやり過ごせたようだ。 [ 第二幕 ・ 第五景 ] BGM が折り重なるようにして曲調が変わり、シンコペーションの軽く跳ねる様なドラム そのリズムに短くカットするかの如くリフを入れてくるアコースティックピアノには、 エコーが効いている。静かに・・・静かにその曲は流れて来た。 ドライアイスのスモークが床の上をフワフワと這って来る様な、そんな音景・・・ 夢か幻なのか、幻想的なムードに包み込まれる川崎ロック・・・ ステージ上にはシモテサイドに白いツイタテ。2m×1m位のサイズに平ゴムのたて張り そして、カミテサイドにも白いツイタテがある。こちらは白のロールアップカーテンと 言う作りだ。双方が内向きに、ハの字型に立てられている。 フローティングモードと形容したら良いのだろうか・・・ 無機質な音のない四次元空間に漂う得体の知れないものが、そんな空間に揺らめく・・ その時、シモテのツイタテの中から、白い指先がヌゥ〜とのぞく。だがそれはすぐに ツイタテの中に消えた。間を置いて、今度は素足がヒザの所まで、ツイタテのゴムの間 から溶け出すようにジワリと突き出て来た。それはしばらくその場にとどまり、また 消えて行く・・・ 一体何なのだろうと思っている時、平ゴムがパクっと引き分けられ、白く細い腕、きゃ しゃな肩、横向きに流れ出すかのように、何者かが現れた。顔を見ると無機質・無表情 な、白い仮面の女だ。生命体と言うには生気がない、物体と言うには生き物の様だ・・ ともかくこの世の物とは思えない空虚な、女の形をしたものとしか言えない。 それは闇の中を漂うように、さまようようにただ、ただ、闇雲に舞台空間をゆっくりと 歩きまわっている。深夜の高層ビル、何もかもが眠りに就き、人気の無くなった空間は そこに住み着く、「もののけ」達の活動の場なのかも知れない・・・ ビーズのようにキラキラと光る一枚の布を、巧みに体に巻きつけ、ショートドレスの様 にしている。仮面をつけているが渡辺理緒である。その仮面は泣いているようにも見え、 また、微笑しているようにも見え、何を思っているのか読み取る事が出来ない微妙な 表情である。前髪をたらし、頭には身にまとっている布と同じもので、バンダナを巻く 様にしているので、仮面が顔そのものに見える。 そして舞台上を徘徊して渡辺理緒は消え、すると入れ替わるように今度はカミテのツイ タテのロールアップカーテンがスルスルと巻き上げられると、漠然とそこにたたずむ 新庄愛・・・やはり渡辺理緒同様のスタイル。 先のものと同じように、同じ姿で、微妙に表情に違いのある白い仮面をつけている。 そして、ステージ上をウロウロと徘徊する。 するとまた新庄愛が消え、再び渡辺理緒が現れるとステージ中央辺りでさりげない動き と、その時 ! シモテのツイタテからまた足が・・・ しかも、今度は天井へ向けて足が折れ曲がって出て来た。どうやら逆立ちをするように して、足を突き出しているようだ。その足が消えると、やはり腕・肩・体とツイタテの ゴムを分けてもう一人の「もののけ」が現れる。新庄愛であった。 二人になった「もののけ」達は、それぞれにさまよい歩き、舞台中央で交錯するように 入れ替わり立代わりしながら、「能」を舞うように、右手を肩の位置で前方へと真っ 直ぐ伸ばすと、前後・縦列になり、花道から盆へ向かい、盆にたどり着くと、お互いに 向き合い、盆の天井に開演前に設置された、布から下がるテグスの糸を、それぞれに 引いた。 すると天井からハラハラと薄ピンクの布が降りて、筒状になって二人をその中へと飲み 込んで行ったのだった・・・ [ 第六景 ] ヴェールの布の中で、二人は見つめ合う。新庄愛が渡辺理緒の衣に手をかけ、そっと 衣装を緩める。渡辺理緒の肩からナチュラルに衣装がすべり落ちる。そして今度は 渡辺理緒が新庄愛の衣装に手を掛け、同じように新庄愛の衣装を床に落とす。 そして何もまとわぬ、何も飾らぬ姿になった。新庄愛が床の衣装を拾い、まとめあげ るとステージへと滑らせるように放り投げる。 淡いピンクの筒の中で体を寄せ合い、お互いの存在を確かめ合う二人・・・ 陽炎の揺らめき立つような、その不思議な空間は二人だけのものとなった。 アコースチックピアノが、その筒の空間の外で四分音符を刻み、Sun set Love〜♪ 女性ヴォーカルが、耳に心地良くそして切なく、歌いあげる。 シンプルな編成のバラード。BGM を聴きながら、新庄愛と渡辺理緒のヴィジュアルを 見ていると、何故だか胸に熱いものが込み上げて来た。そして今回のテーマがおぼろ 気に見えて来たような気がする。従業員さんがクーラーのスイッチを切った。 新庄愛と渡辺理緒は、心が通い合ったのか、お互いに仮面をはずし、喜怒哀楽のある 血の通った本来の人としてあるべき、姿になった。曲のエンディングに合わせる様に して、いたわり合うようにそっと抱きしめ合う二人。心の中に横たわる湖に波紋が広 がり、胸を打たれた客席から拍手が沸きあがる・・・ それは草原の風に吹かれる、 草のざわめきの音にも似た拍手だった。 [ 第七景 ] BGM は変わり、ナチュラルシンセサイザーのピュアなメロディーとなり、今まで以上 に壮大なスケール感のあるものとなった。渡辺理緒と新庄愛は筒の中で盆の床に座り 込み、オーロラのように二人を包み込んでいた布に手を伸ばし、ぐっとつかむと一気 にそれを引き下ろした。 オーロラは一瞬ピン ! と天井と二人の手の中で張り詰め、ふわりと二人のもとへ舞い 落ちた。雲を吹き払い、快晴の空が大きく広がるように鮮明に、渡辺理緒と新庄愛の 姿が我々の目前に浮き上がった。 二人は現実の世界に戻って来たのだろう。オーロラはただの一枚の布となり、二人は それをもてあそぶようにして、戻って来れた喜びを体中で表現し、新庄愛は布を背中 越しに持ち、頭上高く広げるとステージへ一歩、二歩と歩み出す。渡辺理緒は盆の上 で座ったまま、新庄愛の頭上高く広がる布を平に直している。 新庄愛がステージへとたどり着く。広げられた布はとても大きく長く、盆のからステ ージまで敷き詰められた、じゅうたんのように見える。 新庄愛は振り返り、盆の上にいる渡辺理緒へ「さぁ、早く ! 渡っておいでよ !」と 言うように、渡辺理緒をステージへといざなう。 そしてここでステージの上で新庄愛、盆の上で渡辺理緒、二人のダブルポーズ。 四つんばいになって、片足を天井高く突き上げた ! 渡辺理緒は頭をシモテ側へ、 新庄愛は頭をカミテ側へ・・・ 込み上げて来る拍手 ! 渡辺理緒はポーズを崩し、敷いてある布を拾い上げ、それをたぐり寄せながらステー ジへと戻って行く。するとステージへ戻った渡辺理緒は、待っていた新庄愛と共に、 先ほど出てきたツイタテの、左右の内側のワクへたぐり寄せて来た布の一辺を、それ ぞれ中央に緩やかなカーブを描くように貼り付け、その内側から左に渡辺理緒、右に 新庄愛。両手をサイドから大きく広げ、頭上高く伸ばし、ポーズを決めた ! そこへカミテ側から ! シュルシュル〜 パッ ! ハラハラハラ・・・・ 寸分の狂いもなく、桜の花びらが渡辺理緒と新庄愛の上へと舞い降りた。 光輝くステージの上、 " A & R ENSEMBLE ROSE " チームショーは桜吹雪の中、押し 寄せる津波のごとき拍手と喝采と共に終了した。 晴れやかな渡辺理緒、新庄愛の二人の顔が、深く胸に染みたチームショーだった。 [ エピローグ ] 「もののけ」の正体・・・ それは・・・ 冥界からやって来た想念・・・ はたまた、この世に幾年生ける人の、求めて止まない形のない、幾千もの心の愛が、 遥かな時空を越えてこの場所に集い、作り上げた幻なのか・・それは私にも分らない。 がしかし、何処からともなく現れた二人の「もののけ」の魂は、汚れ多き世にあっても 変わる事なきピュアな人の心の、「愛の姿」と言うべき偶像ではなかったろうか。 金・地位・名誉・・・ それらの物をどれほど持ち合わせていたとしても、持ち合わ せていなくとも、「愛」は誰にでも平等にまぶしく降り注ぐ。 ただ、降り注がれた「愛」をどれほど温められるか、はぐくんでいけるのか、それに よってもたらされる「愛」の恵みは、おのずと違って来るのだ。 何も持たない貧しき人々よ、嘆いてはならない。「愛」は生きて行く力になるだろう。 何もかも持ち合わせている人々よ、おごり高ぶる事なかれ。「愛」は何物にも変え難い 心貧しき人々よ、今君達に「愛」は見えるか・・・ 終わり・・・ |