もずのわくわく劇場日記 No.131


2005年 1月 5日 (水) ニュー道後ミュージック

「渡辺理緒の新作・薔薇の封印 〜運命のリフレイン〜 本編 序章 」



そもそもこの「薔薇の封印〜運命のリフレイン〜」と言う話は、今をさかのぼる事、およそ900年前、トルコ人のイスラム王朝であるセルジューク朝に、アナトリア半島を占領された東ローマ帝国の皇帝アレクシオス1世コムネノスが、ローマ教皇に救援を依頼した事を発端とする、十字軍の話から始まるのだ。

渡辺理緒ふんする主人公は、この十字軍の傭兵としてジ・ハード(聖戦)に加わっていた。
十字軍と言うのは、中世・西ヨーロッパのキリスト教諸国が、聖地エルサレムをイスラム教
諸国から奪還することを目的に派遣した遠征軍である。

この十字軍の遠征は8回行われたのだが、戦績はと言うと、およそ一勝四敗三引き分け。
結局の所、ヨーロッパ諸国が聖地エルサレムを掌握した期間と言うのは、たかだか103年間に過ぎない。話がちょっと逸れたか。

その十字軍に参加していた主人公だが、自軍の敗北によりどこへと言わず、みんな散りジリ
バラバラになって逃げ回っているうちに、一人はぐれて、バラの花が咲き乱れる谷に、迷い
込んだのだった。

戦に疲れていたため、主人公・フランチェスコは、いつしかその薔薇の花の咲き乱れる谷で
死んだように眠りに落ちた。

ちょうどそんな時、身分の高そうな一人の少女が、バラの花を摘むために通りかかる。

「まぁ大変! あんな所に人が! 人が倒れているわ!」

バラの花をかき分けて、その少女は倒れている男の元へ駆け寄り、抱き起こすとその男の頬に手やり、小さくピタピタと叩きながら声を掛けた。

「もし、どうなされまして、もし。」

「う・・・ うぅ・・・」

フランチェスコは、うめきながら目を覚ました。

「ここは・・・どこ、あなたは誰? あぁ、そうか、ボクはいつのまにこんな所で・・・」

「あぁ、良かった! 気が付きましたわね。」

目を覚ましたフランチェスコはすぐに起きようとしたが、不意に体に痛みが走る。

「うっ!」

思わずのけぞって、少女の腕の中へ再び倒れ込む。

「あん! ご無理なさってはいけませんことよ。どこかお怪我でもなさって?」

「首筋を、敵に少しばかりやられてしまったようだ。」

「敵? まぁ〜 ひどい怪我をしていますわ。こんなに血が出て・・・」

フランチェスコはそう言われて、自分の首筋を見ようとするが、少女がフランチェスコの頬に手のひらを押しあてて、そのままにしていてと言うので、それに従う。

「もしや貴方様は、十字軍の戦士でいらっしゃるのかしら?」

フランチェスコは、そうだと言う。

「それにしても、ひどいお怪我ですわ。」

そう言うと、少女はフランチェスコの首筋の傷に、自分のくちびるをそっと押しあてる。
フランチェスコの肩口に、少女のくちびるの冷たさと、やわらかさが伝わって来た。
その時フランチェスコは、やわらかいが、いやに冷たいくちびるだなと思った。

少女はフランチェスコの傷口を舌で、一度ペロリとなめた。そしてもう一度それを繰り返す。フランチェスコは怪訝に思って、後ろを振り返ろうとするが、頭と肩を押さえられているために振り返る事が出来ない。

「何を? 何をしているのです?」

少女はフランチェスコの傷口から、わずかにくちびるを放して言う。

「傷口から悪しき病の元が、貴方様のお体に入ってしまうと大変な事になりますので、こう
 して傷口を清めております。」

フランチェスコは、その言葉を聞いて感動した。

「なんともったいない、そんな事をしては、あなたのくちびるが汚れてしまいます。
 ボクのような、高々平民の、一戦士に優しく看護する事などないのです。」

ホホホ・・・ と小さく少女は笑い、フランチェスコに言う。

「そんな事はありませんわ。十字軍の戦士と言えば、聖地エルサレムの解放と言う、とても
 尊い使命を背負って戦う戦士ではないですか。身分の差など関係ありません。それに・・
 貴方様の血はとても美味し・・・」

「今なんと仰せに? 血が美味しいと聞こえたような気が・・・」

少女は心の中で「く、口がすべった!」と思い、あわててその場を取り繕う。

「敵の砲弾に、耳を侵されたのではありませんか? 貴方様のような、勇敢な方の血が流れる
 のは、惜しいと言ったのです。ジ・ハード(聖戦)とは言え、何人もの、人の血が流れる事は
 とても悲しい事ですもの。」

フランチェスコは何て清く優しい人なのかと、さらに感動した。そう言えばまだ、この人の
名前すら聞いていなかったと思う。

「失礼ながら、まだ貴女のお名前を・・・ ボクはフランチェスコ、あなたは?」

「そうでしたわね。私とした事が、とんだ失礼を。私はリニア・マルレーンと申します。
 このバラの谷は私の家、マルレーン家の領地で、代々守り続けているのです。」

フランチェスコは、やはり貴族階級の、高貴な御方であったのかと思いつつ、リニアの顔を
見つめた。

リニアは微笑んでいる。フランチェスコはそんなリニアの事を見ていると、胸の中にポッ!
と明かりの灯るような、温かな気持ちになった。十字軍として戦いに明け暮れ、身も心も傷だらけになっていたフランチェスコは、ハタ! と思った。

自分が本当に何かを守るために戦うとするのなら、リニア・・・ そう、リニアを守るために戦うのが自分の生きる道なのではないか? もしかしたら、ここでリニアに出会った事、それは「運命」なんじゃないか?

一方、リニアはその時、フランチェスコはミッキーロークに似ている。ハンサムな人だと一目惚れをしていた。案外面食いで、惚れっぽいのかも知れない。見つめ合う目と目、からみ合う視線と視線。時の流れは止まり、バラの花に辺りを囲まれ、二人はその中心で愛を叫ぶ・・・

「フランチェスコ、私の家へご招待しますわ。しばらく私の家で傷ついた体を、癒してはいか
 がでしょう?」

フランチェスコはありがたく、リニアの招きを受け入れるのだった。

第二章へ続く・・・



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