もずのわくわく劇場日記 No.140-3


2005年 6月 10日 川崎ロック座

新庄愛&渡辺理緒 TEAM SHOW!
アンサンブル・ローズ レパートリー Vol.5th

「運命の二重奏(ディユエット)」



第二章 第一景 「庄屋の家」


庄屋の家で一間を借り受け、新庄愛之介は身づくろいに余念が無い。
魔物を待ち伏せるので、闇に溶け込む黒い着物を用意した。
気合を入れるために、鉢巻を額にまわし、庄屋に酒を持って来させた。

庄屋はこんな大事な時に、酒を飲んでいて大丈夫なのかと言ったが、その言葉に新庄愛之介は怒り、そこへ直れ! 無礼な事を申すとそっ首ハネてやるぞ! と言い、そもそも甲斐源氏・武田氏の祖・源義光、またの名を新羅三郎義光公から数えて・・・と、またしても大ミエを切り出したので、庄屋はそれはもう耳にタコが出来るくらい聞きましたと、言われたままに盃と酒をトックリに入れて持って来た。

それに対して新庄愛之介は誰が酒を飲むと言った! うつけ者め! と怒ったが、まぁいいと言うと、トックリの酒を口に含み、刀に吹きかけて刀を清めた。

庄屋はそれを見て、新庄愛之介の真剣なまなざしに、みず知らずの自分達のために、このお侍様は本気で命を賭けて魔物と戦うつもりだとわかると、くちびるを噛み締め、自分の小ざかしい猿知恵の軽薄さを悔いた。

「新庄愛之介様、私は正直に申しますと、この度の魔物退治につき、あなた様がこの村の住人でない事を良い事に、もし万が一、新庄様が魔物との戦いに敗れ、餌食となって討ち死にしたとしとしても、この村の住人や、お上(おかみ)から長(おさ)として拝命している庄屋の名に、何の損害も無いと考え、新庄様の事を、悪く言えば利用しようとたくらみました・・・

しかし今、新庄様の真剣な姿を見ていまして、自分の考えていた、浅はかな猿知恵をかえりみて、誠に恥入るばかりでございます。

たった一人で魔物と戦に及ぶ事は、あまりにも無謀な事でございます。今からでもまだ間に合うので、直ちに村中にふれを出し、スキ、クワを持って皆集まれと申しますので、今しばらく出立の時刻を遅らせてはもらえませんか。」

新庄愛之介は、庄屋の話を準備を整えながら聞いていた。
そして着物のえりをキュッ! と手でしごいてから落ち着いて言った。

「庄屋殿、よくぞお話下されたな。それを聞かずに新庄愛之介、いざ! と出立しておったなら、物笑いのタネにされているところであった。このような騒動に巻き込まれたのも、拙者の運命(さだめ)であろう。袖すりあうも何かの縁と言う。みなの者には祭りの準備を、ぬかりなくせよとふれて回るが良い。民・百姓の加勢はむしろ足手まとい、戦(いくさ)は侍がするものぞよ。」

庄屋は正座し、両の腿についていた手をギュッ! と握りこぶしに変え、目を固く閉ざし、
再び己が考えの浅はかさを心底悔いると共に、新庄愛之介の武士、侍としての器の大きさに心服し、改めて座り直して畳に額をこするようにしてひれ伏した。

「新庄様、どうしてもお一人で参りますのか。」

「無論じゃ。」

「では! せめてこのお守りを、ご持参下さりませ。」

「御守りとな?」

「古来より当家に伝わる、不動明王の持仏でございます。」

「そのような大切なものを拙者に?」

「武運長久、怨敵退散! 無事帰還をここで祈っております!」

「庄屋殿、かたじけない! 新庄愛之介、魔物を見事討ち取り、皆との祭りを楽しみにしておるぞよ、ぼちぼち魔物の出没する刻限じゃのぅ。新庄愛之介、これより魔物征伐に出立いたす、いざ! 」

「あの! 紫色に光る小さな蜘蛛を見たら、お気をつけなされませ! 魔物は・・・」

庄屋が新庄愛之介の身を案じ、魔物についての予備知識を言おうとしたが、新庄愛之介はろくに聞きもせずに飛び出して行ってしまった。気が早いと言うのか、あわて者と言うのか・・・


次回・第二章 第二景 「待ち伏せ」へ続く



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