もずのわくわく劇場日記 No.140-4


2005年 6月 10日 川崎ロック座

新庄愛&渡辺理緒 TEAM SHOW!
アンサンブル・ローズ レパートリー Vol.5th

「運命の二重奏(ディユエット)」



第二章 第二景 「待ち伏せ」


今夜も蒸し暑い夜になった。
新庄愛之介は黒い着物に身を包み、額には気合を込めた鉢巻をしているので、額から流れる汗は抑止出来たが、首筋や背中を流れる汗は着物に吸い込まれ、体に着物が貼りつき不愉快であった。

月の光を頼りに鎮守の森へと進む新庄愛之介は、いつ何時魔物が現れても良いように、刀のツカに手を掛け、道の左右の暗がりにも目を配り、用心深く歩いている。

すると三間ばかり先で、道端の草むらがガサガサと揺れている。
新庄愛之介は神経を鋭敏に研ぎ澄まして目を凝らす。
ゆっくりと注意深く歩きながら進むと、草むらの揺れるガサガサと言う音がさらに大きくなって来た。新庄愛之介は、腰の刀のサヤを手でそっとつかみ、鍔(つば)を親指で押し出し、いつでも刀を抜ける状態にする。

新庄愛之介は立ち止まった。ガサガサとする草むらに視線を注ぐ。
耳を澄ませていたその時!

「ギャァ〜!」

と言う雄叫びと共に、草の茂みの中から新庄愛之介をめがけ、何かが飛び掛って来た。
「はっ!」っと一歩、横っ飛びに新庄愛之介は身をかわす!
すると足が着地した瞬間!

「うおっ!」

田んぼのあぜの土手にすべり、新庄愛之介は田んぼの中へ転げ落ちた。

「おのれぇ〜! 出たか魔物、妖怪、魑魅魍魎! (ちみもうりょう)」

そう声を張り上げてあたりを見回すが、月明かりの中に猫が二匹、走り去って行くのが遠くに見えた。

「猫か・・・」

田んぼの中でゆっくりと立ち上がった新庄愛之介は、泥まみれになっている。それにヒザもすりむいたらしく、少々痛かったのだが、こんな所で猫に脅かされて、田んぼに転げ落ちたとあっては、末代までの恥辱と思い、誰にも見つからぬうちにここから這い上がろうと、あぜの土手を手で草をつかみながら、這い登って行った。

その時、新庄愛之介のかたわらにいた、紫色に光る一匹の小さな蜘蛛が、草をつたいながら
着物のスソに這い上がっているのを、新庄愛之介は気がつかなかった。

やっとの思いで土手上の道まで登りつめ、泥にまみれた着物を手ではたく。
新庄愛之介は気を取り直し、魔物がすみかとする鎮守の森へと急いだ。

この時、紫色に光る小さな蜘蛛は、細い髪の毛のような長い足を折り曲げ、あちらこちらを
突っつくようにしながら、黙々と着実に、新庄愛之介背中から肩の上へと這い上がっていた。

「それにしても、魔物とはいかなるものであろか。赤鬼がごとき屈強な豪傑か、はたまた妖怪ような薄汚く、醜い化け物のようなものか。いずれにせよ人間を喰らうのだと言うのだから、相当いかついものだろうな。まぁ、たとへどのようなものであっても、この先祖伝来の名刀、大神宮妙法正宗で胴体とそっ首を真っ二つにしてくれる! 魔物よ、今のうちに首でも洗って待っているがよい。わはははぁ〜!」

豪快に笑って気持ちを奮い立たせながら、魔物のすみかである鎮守の森へと新庄愛之介はたどり着いた。あたりには人影も無く、ひっそりとしている。新庄愛之介は、胸元に流れ落ちるベトつく汗を、懐に手を入れてぬぐった。

「やけに蒸し暑いなぁ、風でもあれば少しは涼やかになろうほどに・・・」

新庄愛之新は、そう言いながら一息入れようと、ご神木の根元に腰を下ろした。
紫色の光る小さな蜘蛛が、新庄愛之介の頭の上によじ登り、ご神木へ移動して行った
そんなおり、ちょうど良く涼やかな風が吹いて来て、新庄愛之介の頬を撫でて行く。

「おぉ、これはなんと気の利いた事か。ありがたい、一息付けるな。さて、まだ見もしない魔物をどうやって探す? 兵法其の一、まずは高き所より戦場を見渡し、地の利と敵の動向を探れ。だったな。」

そう言うと寄りかかっていたご神木を振り返り、新庄愛之介はそれを見上げた。

「ふむ、この木に登って、上から魔物が来るのを待ち伏せする。妙案だな。」

そう独り言を言うと、腰を上げてご神木にしがみつき、スルスルと木に登り、手ごろな枝の根元に腰を落ち着けた。ここなら境内がすべて見渡せるから、どこから魔物が現れてもすぐに見つけられると、新庄愛之介は確信した。

「さぁ〜! ハトがでますよっと! どこからでも魔物よ出て来い!」

風がだんだん強くなって来た。新庄愛之介は木にしがみついていないと、振り落とされそうだ。ざわざわざわ〜 っと、音を立てて鎮守の森の木々が揺れる。ところが、それはホンの
いっ時の事で、すぐに風はピタッ! と止んだ。新庄愛之介は何かを感じ取り、眉間にシワを寄せて境内を見渡している。

すると、どこからとも無く人の声が闇の中から聞こえて来た。
しかもその声は女の声のようである。

「甲斐源氏・・・ 武田氏の祖、源義光・・・
 またの名を、新羅三郎義光公から数えて十五代・・・」

おや? どこかで聞いた口上だと思ったら、それは新庄愛之介のお気に入りの口上ではないか。新庄愛之介は他人に得意の名調子を取られ頭に来た。なので闇からの声をさえぎり、その続きを自分で言う。

「その家臣から数えて三代目、新庄愛之介とは拙者なり!」

闇の奥から「ふふふ・・・」と含み笑いが聞こえる。そしてその笑い声はもっと大きな声になり、「はははは・・・」と森の木々の間にこだまする。新庄愛之介は益々イライラした。

「姿も見せずに声だけの登場とは卑怯千判! うぬが魔物であるならば、姿を現し神妙に人里離れた山の奥深くに退散すると約束するなら見逃してやる。だが、敵対するとあらば容赦はせんぞ! 覚悟を決めて今すぐ返答せよ! 」

静まり返った森の木立の間から、ぼやっと紫色に光る着物を着た娘らしき人影が現れた。
そしてその紫色に光る娘は、新庄愛之介を見る事無く言う。

「誠に勇ましき新庄愛之介殿の心優しきお言葉。ご返答しますので、どうぞここまで降りて来てはくれませぬか。」

新庄愛之介は思っていたより話の分る魔物ではないかと、木の上からスルスルと降りて来た。まったく持って「疑う」と言う事を知らぬ男である。地に下りた新庄愛之介はやや離れた所で、紫色に光る着物の娘を見る。

「そこ元が魔物か、だいぶイメージが違うな。して、返答はいかに。」

娘は「ホホホ・・」と小さく品良く笑う。
鈴を転がすような、耳に心地よい声で言った。

「新庄愛之介殿? お着物に土が付いておりますが、いかがされました。」

痛いところを突っ込まれたと、動揺する新庄愛之介。

「いや、なに。どこかでこすれたのだろう。」

その言葉を聞いて、娘は袖で口を隠しながらクスクスと笑う。

「先ほど猫に驚いて足を滑らせ、土手下の田の中に転げ落ちたのではありませんでしたか?」

なぜそれを知っている? あの時は誰もいなかったはずだと、あせる新庄愛之介。

「誰もいなかったはずと思うてか? ホホホ・・・ 草の葉の上で休んでいる所を、そなた様が転げ落ちて来たので、危うくつぶされて死ぬかと思いました。」

娘の言っている意味が分らずに、新庄愛之介は考え込む。

「分らぬのは当たり前の事。蜘蛛の姿に変化しておりました。そしてそれからずっと、私は新庄愛之介殿の肩に乗っておりました。」

「なんと! ずっと一緒にいた? 」新庄愛之介はそう言ったかと思うと、自分の肩の上を見る。まさかここへ来る前に、すでに魔物と一緒にいたとは、まったく気がつかなかった。
それならば木の上にまで登って苦労する事はなかったではないかと、体から力が抜けた。

「ホホホ・・・ 新庄愛之介様は、古き良き時代の武士の忘れ形見と申しますか、落とし子と申しますか、たぐい稀なる純粋なご気性とお見受けいたしました。」

新庄愛之介は黙って聞いていたが、良く考えれば自分の事を愚弄していると思った。

「何が言いたいのかのぅ、つまり拙者が単純な男であると言うのか。」

娘は牛若丸のように薄手の衣を両手に持ち、それを頭からかむっている。その衣を透かして新庄愛之介の事を見ている。

「お気に障りましたのか? 元より愚弄するつもりなど毛頭ありませぬ。あなた様のその純粋な目を見て、今まで感じた事のない何かを見たと思うているのです。しかしながら、見も知らずの村人のために、一命を投じての魔物退治。それは無駄に命を捨てる事になりまする。新庄愛之介様のような方を、死なせてしまうには誠に惜しい・・・」

新庄愛之介はその言葉に激怒した。無駄に命を捨てる事になる? 死なせてしまうには惜しい? 初めからまるで、自分が魔物に食い殺される、敗戦の将と思っているではないか!
おのれ、娘の姿で拙者の目をたぶらかし、上から見下ろすモノ言い、許し難い!

「娘よ、いや、魔物。まだ先ほどの返答を聞いていない。おとなしく山奥深く退散するか、
それとも拙者に敵対するか、さぁ! 聞かせてもらおうか!」

娘はクルリ! と新庄愛之介に背を向け独り言のように少し悲しげに言う。

「魔物・・・ そう呼ばれておる。なれど、それは呪われたこの体だけの事。魂までは魔物とはなっていない! そなたのような、純粋な心を持つ男の魂の愛に触れれば、呪われたこの体は氷解するごとく、魂は解き放たれ、きらめく光の珠となりて、幾千の時を越えて生まれ変わる事ができる・・・」

「何を言っているのか意味がわからん。拙者にお前の事を愛せと言っているのか?」

娘のなりをした魔物が言う。

「ここで死んでいただく。いや、死なせとうない! わたくしと共に生きてたもれ。されば山の奥深く隠遁し、村人にも危害は加えぬ。なれどそれがまかりならぬと仰せなら、無理にでもそなたを連れて行く !」

新庄愛之助は妙な気分になった。場合によっては、これから戦わなければならぬ相手だと言うのに、共に生きてくれとは、面妖な話である。良くは分らないが、この魔物にも何か事情があるようでもあるが、かと言って、魔物と一緒に暮らすつもりはないし、村人達との約束もある。

「魔物よ! 連れて行かれてなるものか! 神妙にそこへ直れ、成敗してくれる!」

ホホホ・・・ 笑い声を立てた魔物は「なれば仕方がない、力づくで連れて行く!」と、
ついに! 新庄愛之助と魔物の、対決の火蓋は切って落とされた!!!

いよいよ次回、アンサンブルローズステージレポへと移る!



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