もずのわくわく劇場日記 No.155-7 エリザベート


[皇太子ルドルフの孤独]

父・フランツヨーゼフとの交渉に失敗した皇太子ルドルフは、それでもオーストリア帝国とハプスブルク家の崩壊を黙ってみている訳にはいかなかった。独立運動をくわだてる急進派の活動家たちと手を組み、一刻も早く新しいドナウ連邦を構築する! オーストリア帝国が分裂する前にドナウ連邦を作り上げなければ、ドイツが付け入るスキを狙ってる! もしもそれが間に合わなければ、オーストリア帝国の統治下はドイツ軍にじゅうりんされ、オーストリア帝国もハプスブルク家も滅亡の道をたどる事になってしまう。

皇太子ルドルフはあせっていた。そしてその心の中には迷いもあった。皇太子が独立運動の活動家と手を組み、独立運動を起こすと言うのは、皇帝への反逆になるからだ。しかし活動家達の言うように、今のままではオーストリア帝国もハプスブルク家もダメになる。ドナウ連邦さえ出来上がれば、オーストリア帝国は滅亡してもハプスブルク家は生き残る事が出来る。

トート閣下が活動家に混じって、皇太子ルドルフの迷いを断ち切るように急き立てる。

「今こそ帝国政府を倒す時だ。今なら救える、ハプスブルク家を・・・」

「だが、私は反逆者・・・」

活動家たちはルドルフに言う。

「それは違う、あなたは救世主になるのだ! ハンガリーの王冠があなたを待っている!」

「ハンガリー国王・・・」

「さぁ、今この機会を逃すともう二度とチャンスはないぞ!」そうトート閣下と活動家たちから言われ、ルドルフは決断を下した。そしてハンガリーの活動家たちと共に独立運動を決起した!

はっははは・・・ トート閣下は不敵な笑い声を上げ「計画通りだな。」とつぶやいた。計画通りとは一体どう言う意味だ? そう、ハプスブルク家の内部分裂、そしてハプスブルク家の滅亡、エリザベートに「死」を愛させるための計画さ。

皇太子ルドルフを先頭に、独立運動の活動家たちは決起した。だが、その騒動は皇帝フランツ・ヨーゼフが差し向けた軍隊の銃声によって、いち早く鎮圧され、しかも事件そのものが秘密裏に処理された。

どうしてかって? そりゃそうでしょう、皇太子が皇帝に反逆してみずから独立運動の首謀者になったなんて言う事が、国内はもとより、国外の諸国に知れたらどうなる?

捕らえられた皇太子ルドルフの所へ、父・フランツ・ヨーゼフがやって来た。

「これがハプスブルク家の後継者のした事か・・・」

「父上、私は・・・」

「何も言うな、聞きたくない! ルドルフ、皇位継承は難しいぞ!」

なぜ私の想いが父上には伝わらないんだと、意気消沈しているところへ、エリザベートが旅から帰って来た。そうだ、ママなら父上の事を説得出来るかもしれないと、ルドルフは最後の望みをエリザベートにいだき、かつてハンガリーを救ったエリザベートにとりなしてもらおうと相談を持ち掛けた。

たが、エリザベートは父へのとりなしは出来ない、政治の話からはもう身を引いたの。あなたは大人なんだから自分の問題は自分で解決出来るはずですよと、聞く耳を持たなかった。

失望した・・・ ルドルフに援軍はもういない。
孤立無援、自分が生きる事の意味さえ見失う事となってしまった。その時、どこから来たのか「友達」いや、黄泉の国の帝王・トート閣下が、暗がりの中に立っていた。そして、うれしそうな顔で言う。

「死にたいのか?」

そう言われてルドルフは初めて死ぬ事を考えた。死んでしまえばどれほど楽になれるだろう。
しかし、ホントにそれでいいのか? ハプスブルク家はどうなる? 父・フランツ・ヨーゼフは?
母・エリザベートは? しばし心の葛藤がつづく。




トート閣下(渡辺) は、そんな皇太子ルドルフ(新庄) の事を見て哀れに思う。




ここはダンスの見どころ
渡辺理緒と新庄愛のからむトート閣下と、皇太子ルドルフの心の動きを
リアルに描写するダンスを、完璧に踊りあげたアンサンブル・ローズの
踊りっぷりが見る者の胸に重くのしかかる!




もう迷うのはよせ! とトート閣下は皇太子ルドルフに短銃をそっと手渡す
その短銃を受け取った瞬間「もう生きるあてもない・・・」とルドルフは、
銃口をみずからの頭にあてがい、引き金を引くのだった・・・




銃声がとどろき、ルドルフは命をトート閣下にあずけた
そして、トート閣下はルドルフの「死」を承認し
死の接吻をすると、ルドルフの死が成立するのだ!




みずからの意思で「死」を愛し、永遠の自由を手に入れた
皇太子ルドルフのなきがらがステージに横たわる・・・


「ルドルフ!」取り乱した女の声が宮殿の中に響き渡り、長い廊下を走りまわる音が、地下室へと駆け抜けて行く。愛すべき息子、皇太子ルドルフの「死」を知ったエリザベートのいたたまれない後姿。

ガチャリ! と大きなドアが開けられると、そこには変わり果てたルドルフのなきがらが、静かにポツリと横たわっていた。エリザベートは息をのみ、はなれたところでじっとルドルフの事を見つめた。そして、おずおずと一歩ずつ足を運びながら、息が絶えたルドルフの眠るような顔を見て、ここまで押しとどめていた感情が、堰を切ったように噴出し、ルドルフの体の上に崩れ落ちる。

エリザベートは、命消え果てたルドルフを抱きかかえた。
冷たい・・・ なぜ? この冷たさはどこかで感じた事があるわ!

あなたね・・・ 息子を奪った? どうして私の命を奪わなかった!
よこせと言えば、いつでも差し出したのに
これ以上待たせないで、苦しめないで・・・
あなたがずっと待ち望んでいたものでしょう?
あげるわ、命を。だから死なせて・・・

こんな時にトート閣下の冷たい影が、エリザベートに付きまとう。
「だから死なせて」エリザベートは耐え難い悲しみと苦しみ、怒りにうろたえ、そう口走った。

だが、この苦しみから解放してくれるはずのトート閣下は言った。

「まだお前はオレを愛していない! 死は逃げ場ではない!」

屈辱に震えたトート閣下は、そう言い残して闇に消えた。
しかしこの時、トート閣下は一つだけ隠していた事がある。それは・・・

「お前は、お前だけは殺せない! オレがお前の命奪った時、オレはフランツ・ヨーゼフに・・・
 敗北した事を、認めなければならないからだ!」

そう、トート閣下は「生きたお前に愛されたいんだ」と言って、一度死にかけたエリザベートに命を返した。そして生きたエリザベートに愛されるまで、時を待った。だがエリザベートはフランツ・ヨーゼフと結婚し、トート閣下の計画は大きな誤算を生み、エリザベートの愛をめぐってフランツ・ヨーゼフと争う事になってしまった。

トート閣下にしてみれば、エリザベートの命を奪う事など、いつでも出来る。それなのにどうしてそれをしなかったのか。エリザベートは彼女自身がその都度「生きたい」と切望し、闘い、傷付き、そしてまた生き抜いた。

トート閣下は生きたエリザベートに愛されたいがために、嫉妬にかられて人心を動かし、ハプスブルク家を崩壊へと落し入れた。母に代わり、みずから死を求めた息子の望みも応えてやった。トート閣下の望みは「死」が「愛」と結ばれる、通常ではありえない「人が死を愛する」と言うタブーを乗り越えた「グランド・アモーレ、偉大なる愛」なのだ!

エリザベートはこれまでも、ずっと自分は孤独だと思っていた。だが今ほど本当に孤独を味わった事は、かつてないと心がきしむ。本当の孤独とは、呼んでも誰も何も答えてくれる人のない事なのだと知った。目の前に愛する息子・ルドルフがいるのに、何も答えてくれない・・・


「最後の証言」へとつづく・・・


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