もずのわくわく劇場日記 No.155-8 エリザベート


[最後の証言]

 いまどき珍しい事もない「すれ違い夫婦」
 だが、百年前にゃ珍しいキッチュ! な夫婦さぁ〜

 夫は妻になにを?
 妻は夫に何を求めたのか。
 エリザベートの愛はどこにあるの
 夫は妻の旅先を訪ねた・・・
 (歌う渡辺理緒・・・)

 突然出て来たイタリア人・テロリスト
 「ルイジ・ルキーニ」

 浮かれた調子で歌いまくっている時
 天から響く大真面目な声がお気楽な空気を
 ぶち壊す。

 「時間だルキーニ! 法廷は閉廷する。」



 「待ってくれよ! まだ終わっちゃいない!」

 「皇帝が皇后を愛していたから暗殺したとでも言うのか!」

 裁判官が厳しく問い詰めた。



 
 「そうとも言える・・・」

 ルキーニはある意味、開き直って言った。

 それに対して裁判官は激怒した。

 「はぐらかすな!」




 「まだ最後の証言が残ってるぜ、さぁ〜!」

 黄泉の国の帝王・トートと皇帝・フランツ。

 二人の男が一つの「愛」をめぐって争う!

 エリザベート!



ヨーロッパの歴史的背景からトート閣下の策略までを描いて来たが、ここでステージの場面は一転してステージのオープニングでのシーン、イタリア人テロリスト・ルイジ・ルキーニを裁くあの世の法廷へとなる。つまり、これまでのオーストリア帝国、ハプスブルク家など、それぞれの景は、このルイジ・ルキーニの裁判での証言、回想録、再現ドラマなのだ。

ショーの構成がとても複雑に入り組んでいるので、そろそろみなさんオープニングのシーンを忘れているかも知れないので、一応ここで改めて解説しておくね。「エリザベート」は裁判のシーンから始まったんだよ、思い出した?

では急に場面が転換したアンサンブルローズのステージ、イタリア人テロリスト・ルイジ・ルキーニ「エリザベート暗殺事件」についての最後の証言の場面、じっくり傍聴していただきましょう。
それではステージの続き、リオさん、新庄さん、よろしくお願いします・・・ m(_ _)m



 あぁ、わかったよ。
 それにしても、もずさん?
 説明が長いねぇ〜、待ちくたびれたよ。

 じゃ! 新庄、そろそろ後半始めようか。
 あれ? なにその衣装?
 そこはもう終わったじゃん!



 えっ? ちょ、ちょっと待って!
 この衣装、すごく気に入ってるんだ♪
 あたし、きれいでしょ?
 脱ぎたくないよぅ・・・

 あたしは美しきエリザベート♪
  



 あ〜ぁ!
 あたしよりもナルシストだな、新庄は・・・

 ほらっ! ツベコベ言ってないで
 早く着替えて来なさい!

 始めるよ!!




トート閣下は長い間、時を待った。だがエリザベートは皇太子ルドルフの死後、まるでふぬけのような惨めなありさまになってしまった。生命に時間の限られる人間、エリザベートにはもうこれが限界だ。生きたお前に愛されたかったが、もはやこれまでだ。フランツ・ヨーゼフとはエリザベートのたった一つの「愛」をめぐって争って来たが、勝負の勝敗など、もうそんな事はどうでもいい!

トート閣下は懐から赤いサヤの短刀を取り出し、ゆっくりとそれをサヤから抜いた。ギラリ! とロウソクのあかりに光った短刀の鋭い刃を見てから、トート閣下はじっと目を閉じたまま、独りつぶやいた。

このナイフは間違いなくエリザベートの生命を奪うだろう。しかしそれは、オレが命あるエリザベートの愛を勝ち得ない事を意味する。だがもうこれを使う事でしか、エリザベートには時間が残されていない。ならば! せめて心だけでも生きたままで、お前を黄泉の国へ迎えたい・・・

すると、トート閣下は目を見開き短刀をサヤに戻し、それを地上に投げ落とす。
その瞳はどんな湖の深い青さより沈んだ、トート閣下の苦渋の決断を表していた。

「お〜い! 船が出るぞ〜!」

 1898年9月10日(明治31年)、ジュネーブ・レマン湖のほとり。
 それは素晴らしく晴れ上がった日だった。
 オレは拾った新聞で、エリザベート皇后が来ている事を知った。
 オレはツイテる、運がいいと思ったね。
 
 「急ぎましょう、船が出てしまうわ。」

 エリザベートはお供のスターレイ婦人と足早に船着場へと歩いて行った。



エリザベートは皇太子ルドルフが亡くなってからは、ずっと喪に服したまま、黒いドレスに黒のベールと言う服装だった。黒いベールをかぶっていたのは、素顔を見られるのが嫌だったからさ。

相変わらず皇后陛下は旅をつづける流れ者。皇帝陛下は午前三時半に起きて夜中まで仕事のしっぱなしだ。
そりゃぁこんな大国じゃ、いくらやっても片付くわけはない。仕事中毒と旅マニアって言う、どっちを取っても変わり者。こう言うヘンテコな夫婦の事を「キッチュ」な夫婦って言うのさ。
永遠の・・・スレ違い夫婦! あははは・・・

オレはレマン湖畔の散歩をする振りをして、遊歩道の柵の手すりに寄りかかって待ち構えていた。ボーッ! と言う船の汽笛が聞こえる。定期船の乗船開始の合図、その時さ。黒いドレスに身を包んだ女が二人、やって来るのが見えた。オレは黒い日傘を差している方がエリザベートだとすぐに分かった。どうしてかって? それはトート閣下のお導きだからさ。

興奮するぜ! オレは息をひそめて懐から赤いサヤのナイフを取り出した。
向こうから歩いてくるエリザベートとの距離を測り、どの辺りでエリザベートと接触出来るか計算して、飛び出して行くタイミングを待った。今だ!


 エリザベートは向こうから走って来る男が、なぜか自分に向かって来るような
 気がした。ぶつかる! と思い、持っていた日傘で反射的に身をかばった。

 その時、振り払った男の手の中に光るものを見た。
 直感的にナイフだ! と思う。
 殺される!

 エリザベートはあわててその男から離れようとしたが・・・

 固く冷たい物が自分の体の中に深く、ゆっくりと入り込んで来る感触が
 胸から背中を走り、思わず身をのけぞらせた。

 その時、見上げたレマン湖の上に広がる、青く澄み渡った大空がまぶしく
 思え、エリザベートは目を細める。

 「エリザベート!」

不意に誰かがエリザベートの名前を呼ぶ声が聞こえた。その声は多分、エリザベート本人にしか聞こえなかった。だが、エリザベートはこう思った。

「たった一度だけ私の名を呼び、力強くその声は私を求めたわ。その時、私は生まれて初めて、本当の自分の名前を呼ばれたような気がしたの。名前を呼ばれる事がこんなにうれしい事だなんて・・・」

レマン湖の青空に浮かぶ白い雲は、たちまち形を変えて、まぶしさに目を細めていたエリザベートの事を見下ろす人の形になり、あっと言う間に消えた。だが、エリザベートはそれが誰なのか、確かに見えた。白い服を着ていたが、白銀の長い髪は間違いなくあの人だと思う・・・




 あははは・・・ 笑ってやがった!
 あの女、ブスリ! と心臓を刺されていると言うのに
 笑ってたぜ! ふははは・・・

 なぜか分かるかい? それは、それが・・・

 グランド・アモーレ! 偉大なる愛さ!
 


エリザベートの供のスターレイ夫人が、かん高い悲鳴を上げ、それに気がついた通行人が駆け寄り、四人の男達が、ルキーニを取り押さえた。ルイジ・ルキーニは「オレはアナキスト、ルイジ・ルキーニだ!」と狂ったように絶叫しながら警察に現行犯逮捕され、連行された。

「グランド・アモ・・・、さわるな! 放せ! グラ・・・ こら! 放せ、痛いつーの!」


 ルキーニはすべての霊魂たちが引っ込み、石の回廊に残ったナイフを拾い上げ
 あの世の裁判長に向かって言った。

 あの時オレはただのアナキストだった。
 だが裁判長殿、これでお分かりでしょ?
 現世ではオレの殺しは、突発的な反抗だと言う判決が出た。
 不名誉な「にわかアナキスト」と言う烙印を押されたから、オレは自殺した。

 
だから、ここでアンタにオレの名誉を回復してもらいたいんだ!
オレはトート閣下が皇后エリザベートとのグランド・アモーレを完結させるために遣わした使者だってね。
オレがやったのは犯罪じゃない! 芸術さ。それはこの後の二人の様子を見てもらえば解かるはずだ!


「黄昏の港」へとつづく・・・


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