もずのわくわく劇場日記 No.155-11 エリザベート


[終章・長い旅路の果て]






























 

 エリザベート、今こそお前を
 黄泉の世界へ迎えよう。

 天より音もなく静かに舞い降りたトート閣下は
 白い装束でエリザベートの前に立った。
 そしてエリザベートも白いローブ・デコルテに
 身を包み、トート閣下を招いた。

 トート閣下はどれほどこの時を待っていたか、
 思えば時間の観念のない、黄泉の世界に住む
 トート閣下でさえ、気の遠くなるような長い
 旅路ではなかったろうか。

 白い装束でエリザベートを迎えに来たのは、
 花婿として、白いローブ・デコルテでエリザ
 ベートが出迎えたのは、花嫁としての証しだ。

 エリザベートはトート閣下の青い瞳をじっと
 見つめて、その瞳の青さに誠実な愛の情熱を
 感じた。

 トート閣下はどうした事か、エリザベートを
 抱きしめようとしたが、一瞬、手を出すのを
 ためらった。

 それはこの女を抱いたら、あるいはこの身は
 溶けて消えるかもしれない。

 初めて冥界でエリザベートに出会った時の事
 を思い出す。あの時少女は、オレに愛の烙印
 を押したのだ。

 そして今、ついにその愛を勝ち得る時を迎え
 たのだ。出来れば生きたままのお前に愛され
 たかった・・・

 望みのすべてを満たす事は出来なかったが、
 それでも! それでも、今こうしてお前は
 みずからの意思でオレを求め、愛している。

 トート閣下は今こそ、グランド・アモーレ!
 偉大なる愛の名のもとに両腕を大きく広げ
 エリザベートをきつく抱きしめた!

 トート閣下の体は溶ける事はなかった。

 しかし、その心はろうそくの火が自分の体を
 溶かして燃え続けるように、ゆっくりと溶か
 されジワジワと流れ出して、同じように溶け
 て行くエリザベートの心とまざり合う。

 やがてそのまざり合ったものが、新たな灯火
 を灯す。それは目を覆うようなまぶしい灯り
 ではなく、ほの暗いがいつまでも永遠に灯り
 続ける愛の火である。



 さぁ、エリザベート!

 二人きりで泳いで渡ろう!

 愛と言う名の深い湖を・・・

 エリザベートは琥珀色の瞳を輝かせ
 トート閣下の青い瞳を見つめながら言った。





 連れて行って! 闇の彼方遠く・・・
 自由な魂が安らげる場所へ!


 涙、笑い・・・

 悲しみ、苦しみ・・・

 長い旅路の果てにつかんだ

 決して終わる時の来ない




 あなたの・・・

   お前の・・・



 「・・・愛!」







 トート閣下はエリザベートの紅い唇に
 自分の青い唇をそっと重ねる。

 それは「死の接吻」ではない。

 お互いに「愛と死の輪舞(ロンド)」の完成を
 確かめ合う、長い旅路のゴールを意味するもの
 であった。

 エリザベートの漕ぐボートが重い荷物を乗せ、
 いつかたどりつくと思っていた「港」に
 ようやく舟のいかりを下ろしたと言う事なのだ。

 この世のすべてと決別し、愛と死が造り出す
 新たなる楽園への旅立ちである。

 トート閣下は翼を拡げ、エリザベートを抱いて
 空高く飛翔する。


 今、二人は振り返らない、後悔しない。

 ハプスブルクの黄昏は、ついにこの瞬間!


 エリザベートを開放したのだった・・・






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