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もずのわくわく劇場日記 No.159
2006年 8月20日 ライブシアター銀映 楽日
渡辺理緒の長い一日「ある愛の軌跡」渡辺理緒 LAST DAY
2006年8月20日・名古屋ライブシアター銀映・・・
渡辺理緒がたどり着いた最後の港。
さぁ! 泣いても笑っても、これが最後の渡辺理緒、ファイナルステージ!
みなさん一人ひとり、それぞれの「想い」を込め、ライブシアター銀映でのこのステージを、しっかりとその胸に刻んで下さい!
渡辺理緒が最後のステージに選んだ作品は!
「薔薇の封印」です! どうぞ、最後の最後まで、じっくりとお楽しみ下さい!
ストリップ劇場のアナウンスとしては、異例な作品名での紹介で、渡辺理緒のファイナルステージの幕は開いた。場内のお客、劇場関係者、踊り子たちの誰もが、じっと息を止めステージの幕を見つめている。押し殺したような静寂の闇の中、聞きなれたピアノのフィレーズが耳にささやくように流れ出すと、ジィ・・・と言う暗幕のワイヤーを巻き取るモーターの音が聞こえ、ゆっくりと幕は開いた。
渡辺理緒の姿が照明の中に浮かび上がる。
いつも見慣れた普通のオープニングシーンだ。
されど、場内に充満している空気が普段とはまるで違った。
渡辺理緒の動きの一挙手一投足、どんなささいな事でも見逃すまいと言う、執拗な
視線が、まるでレーザービームのようにステージへと注がれていたのだ。
ステージで踊る渡辺理緒には、足元に数百匹の黒猫が集まり、暗がりの中で息をひ
そめながら、獲物を狙うために眼だけギラギラと光らせているような光景に見えた
かもしれない。一瞬でもスキを見せたら、いつなんどき自分に襲い掛かって鋭い牙
をむき出しにしてくるか分からない。
身の危険を感じながら渡辺理緒は、スポットライトを浴びて踊り続ける。
しかし、そんな危険な熱視線をものともせず、渡辺理緒はスリリングなダンスを踊
り、一瞬たりとも付け入るスキの無い完璧な踊りっぷりで、それを跳ね除ける。
12年半コツコツと自分なりに積み上げてきた踊りに対する思念と磨き上げた技術の
すべてを余すことなくこのステージに込めた「薔薇の封印」は、まさに渡辺理緒自
身にとって、たどり着くべき最後の港であり、ここで深く沈めた重い碇(いかり)
は、二度と引き上げる事はないのである。
仮にその碇が再び引き上げられる事があるとするならば、いや、引き上げることが
出来る者がいるとするならば、それはきっと「新庄愛」その人しかいないだろう。
渡辺理緒の腕から下がる長い袖が、引き裂かれるように破れている。
渡辺理緒がどれほどこの衣装を着てステージへ立ち続けたのか、どれほど渡辺理緒
がこの衣装を着てステージの上で戦い続けて来たのか。
「薔薇の封印」、初出しの2005年1月の道後以来、わずか一年半余と言う短い間に
渡辺理緒の衣装で、これほどボロボロになったものは例を見ない。
だがそれは、これまで多くのお客のリクエストに応えて上演を重ねたからであり、
渡辺理緒に与えられた勲章でもあるのだ。
渡辺理緒はこの衣装を几帳面に折りたたみ、衣装カバンに詰め込んで、各地の劇場
から劇場へと旅して回った。自分がステージで踊る事を待ちわびていてくれる人達がいる。お客さんから望まれてステージで踊る事が出来る。その「喜び」が踊り子・渡辺理緒をこれまで支えたのだ。
2004年12月、渡辺理緒は未公開の新作「薔薇の封印」と「エリザベート」、そのど
ちらの作品を先に舞台に上げようかと悩んでいた。
この時の「エリザベート」は、アンサンブルローズで上演されたものではない。
まだストリップ界では誰も取り組んだ事のない、前例の無い壮大なスケールの作品
だった。もしこの時の「エリザベート」が上演されたとしたら、マスコミも黙って
はいなかっただろう。
一回目の香盤で第一景、二回目の香盤で第二景、三回目の香盤で第三景、四回目の
香盤で第四景完結。すなわち一日中観劇しないと物語が完結しないと言う前代未聞
の作品だった。
ステージは無情にもどんどん進んで行く。
リオマニアな人が、この時何を考えているのか痛いほど良く分か
る。エンディングのラストシーンから逆算し、あとどれくらいで
この渡辺理緒ファイナルステージが終わってしまうのか、そして
渡辺理緒のステージが封印されてしまうのかと・・・
しかしその淋しいカウントダウンは、誰も口には出さないが、そ
れとはなく数えていたに違いない。
薔薇の花びらを一枚づつむしり取り、泣きのベット。渡辺理緒のステージをこんな淋しい想いで見た事は無い。重く切なく、深く沈み込む。悲しいほど渡辺理緒は美しかった。美しければ美しく見えるほど悲しかった。そしてこんなに迫力のあるベットシーンは、リオ隊の私でさえ、かつて見た覚えがない。
非常にまずい事に目頭が熱くなって来た。
盆の上にいる渡辺理緒の事がぼやけて見えない・・・
何度指で眼をこすっても、渡辺理緒が見えない。
渡辺理緒は水中で踊っているのか?
見えないんだからこれ以上書けない! どうすりゃいいんだ・・・
ま、待ってくれ! 行かないでくれ!
もっとずっとここで踊っててくれ!
渡辺理緒は躊躇することなくステージへと戻って行く。
そこへ行ったら戻って来れなくなるんだぞ!
リオさーん! 場内から絶叫する声が聞こえて来る。
誰もが同じ気持ちで渡辺理緒の事を見つめている。
渡辺理緒の耳にも、その叫び声が届いているはずだ。
しかし、その声を振り切るようにして渡辺理緒は客席を振り返り、ファイナルステージの幕は閉じられ、ここに封印されたのだった・・・
この時の真っ赤な照明が引き潮のように消えて行く様は、これで確実に一つの時代が終わったと思わせる、切ない瞬間だった。拍手は鳴り止まない。やり場の無い淋しさを、拍手をする事でまぎらわしているとも、12年間の功績をねぎらうような、あたたかな拍手とも言える。
渡辺理緒のいなくなったステージは、こんなに大きくて広い舞台だったのかと、あらためて銀映の広さを思い知らされる。それなのに、渡辺理緒が踊っていると、これでもステージが狭いと思うのはなぜなのだろうか。
拍手の音も消え始めたその時だった!
朝の窓辺に優しく射し込む光の一筋が、暗い場内を照らすように、穏やかな曲のイントロが・・・!
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