もずのわくわく劇場日記 No.163-4


2007年 4月 1日(日) 若松劇場

牧瀬茜&若林美保「MAW MAW(マウマウ)」
〜蝶と桜の物語〜 本編3



茜は意識を失っていた。だが「あかね♪」と、どこからか桜ママの茜を呼ぶ声が聞こえたような気がして、茜は薄っすらと目をあける。

「ママ・・・ どこにいるの? 暗くて見えないよ・・・ 寒いよぉ・・・」
「あかね、そんなところで眠っていないでもう起きなさいな。
 春ですよ、あたたかな春になりましたよ。さぁ、こっちへいらっしゃい♪」
「春ぅ? 春・・・ ママのところへ・・・ 行くよ。」

倒れこんでいた茜は立ち上がろうとして体を起こした。だがバランスを失ってまた前のめりに倒れ込む。クモの餌食となり、失われた両腕。それでも生きる希望は失ってはいなかった。倒れてはまた立ち上がり、そして立ち上がってはまた倒れ・・・

茜が地面を這いまわりながらも顔をあげると、桜ママはまぶしい春の陽光の中でニッコリと微笑み、茜に手を差し伸べているのに、どこまで進んで行っても桜ママの元へたどり着けない。茜が進んだ分だけ桜ママが先へ、先へと遠くなる。

「桜ママ、どうして? 私を一人にしないでよ・・・ ひとりぼっちはいやだよぅ・・・」

傷ついた体を引きずりながらも、茜は桜ママに追いすがるが、桜ママはどんどん遠く、遠くなって行く。桜ママを包み込む薄紅の光も小さくなって、茜にはもう手の届かないところへと消えて行く。

そして真っ暗になった・・・
茜は闇の中でひとり、永遠の眠りにつく・・・

この場面は牧瀬茜のベットをメンタル的な描写で書いてみたものだ。ステージのクモの巣から、花道をつたい、盆へ出てベットへと進むのだが、牧瀬茜の死にかけた蝶の演技が、そこはかとない哀愁を表現していて、涙なくしては見られない実に切ないベットである。両腕を腰の後ろへ回し、手を組み、体を折り曲げながら床を這い、遠く彼方を見つめて悲しく微笑むその姿に、私の胸は痛みを覚えた。そして、盆からステージへと戻り、静かに体を横たえる牧瀬茜。

すると! 場内のお客たちが、どう言う訳か私の方を一斉に見るではないか! な、なんだ?
もずさんってそんなに有名? 人気者? と向けられた視線に焦り、思わず私は立ち上がって客席のみなさんへ「どうも♪ へへへ (^^; 」と挨拶しようかと悩んだ。しかし何か変だ。視線は私の上の方へ流れてるような気がする・・・ おや? ふと私は後ろを振り返り、見上げると足が! なにィ〜? 若松劇場独特な場内設備「ミルキーウェイ」から、若林美保さんが登場してガラスの通路の上を歩いているではないか!

若林美保さんは素足でそろりそろりとステージへ向かって歩いてる。やべぇ! 美保さんのスカートの中を下からのぞきこんでいる形の私。思わず赤面して下を向いてしまった。(^^;

闇の中でひとり、茜の短い春が終わった・・・

どこからどうやって来たのか桜の木である桜ママが、闇の中から音も無く現れた。まるで抜け殻のような顔をしている。桜の木、桜ママに何が起きていたのだろうか・・・

突然訪れた春の嵐に巻き込まれ、荒れ狂う風にさらわれてしまった蝶の茜。桜ママは成すすべもないままの、あっという間の出来事だった。自分の本当の娘のような蝶の茜が、自分の目の前で風にさらわれたと言うのに、自分は助ける事も守る事も出来なかった。自分は茜を見殺しにしたも同然だと、桜ママは狂おしく自分を責めた。

このとき程、自分が桜の木である事を呪った事は無い。もしも自分が歩けたなら、飛べたなら、どこまでも茜を追いかけて助けに行く事が出来ただろうに。私が歩けたなら! 私が飛べたなら! 桜ママは何度も何度も、空を見上げながら、繰り返し叫んでいた。

と、ある時、急に体が燃えるように熱くなったと思ったら、ふっ! と桜ママは、空高く舞い上がった! 生まれてからずっと自分を縛りつけいていた大地から、空へ自由に飛び立つ事が出来たのだ! 桜ママの悲痛な想いが、祈りが、まるで神様に伝わったかのような出来事だった。

桜ママは神様に深く感謝し、すぐに空を飛び茜の事を探す旅に出た。空の上から地上を凝視し、茜を探すが中々茜の姿を見つける事は出来なかった。疲れ果て、途方にくれた桜ママはそれ以上飛べなくなってしまい、とある森の中へ降りて、あてどなく森の中をさまよう。

すると不意に桜ママの顔にクモの巣が張り付いた。「きゃぁ!」と驚いて思わず声を上げた。
しかし、クモの巣を手で取り払っている時、その少し先に一匹の蝶が倒れているのを姿を見つけた。桜ママは「可哀そうな蝶々・・・ 蜘蛛に食べられてしまったのね・・・」と思いながら、様子を見るようにそろり、そろりと蝶々のところへ歩いて行った。

そして、倒れている蝶々の上からそっとのぞき込むようにして顔を見た。
桜ママはその瞬間、はっ! と我が目を疑った!

「う、うそでしょ ・・・」

桜ママはまるで蝋人形のように、ただ目の前で横たわるそれをのぞき込んだまま絶句した。
しばらくして桜ママは、足元から頭のてっぺんへと震えが走り、ふと我に返る。すると桜ママはどうした事か、茜に話しかける。

「起きな、茜。起きな・・・ 寒い冬は通り過ぎ、温かな春が来たんだよ。」

胸が張り裂ける想いとは、こう言うものなのだろうか。
苦しいとか、悲しいとか、そんな感覚ではない。何も無い「無」の世界と言うべきか。何も無いのに茜の姿だけが、ここにあると言う感覚である。生と死の区別もない混沌とした意識、過去も未来も存在しない今ここにあるものがすべての事実・・・

「きゃぁーっ!」

突如、桜ママが頭をかかえて悲鳴をあげた。
桜ママの脳裏に茜が元気に飛び回る温かな春の一日が、やんちゃに笑う茜の姿が、グルグルととめどなく渦を巻いている。悲しみのどん底に落ちた桜ママは、泣きながら自分が着ている薄紅の衣を脱いで、変わり果てた茜の体を覆うように、そっとかけてやり、神様に祈りを捧ぐ。

今度この世に生まれいでし時、茜がこの世の誰よりも幸せな一生を過ごせますように・・・



失意の桜ママは、運命の非情さと命のはかなさを「痛み」と言う形で思い知る。
願わくば、この命茜に授けて今永遠の眠りから、再び目を覚まして欲しい・・・
起きな、茜、起きな・・・ 寒い冬は通り過ぎ、温かな春が来たんだよ・・・

この続きは、次回更新をお楽しみに!!

次回へ続く・・・


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