もずのわくわく劇場日記 No.165-3


2007年 7月 13日(金) 新宿ニューアート

若林美保「踊り子やってます」
浴衣イメージストーリー3



不意の雨で乱れた黒髪を、首をかしげるように倒して、白い指先でそっと整える。
部屋へ上がった若林美保は窓ガラスを開け、外の様子を眺めながら「まだしばらく止みそうにないわね。」と誰に言うでもなくつぶやき、窓のガラス戸は開けたまま、軒端につるしてあるスダレをするすると下げると、嫁入り道具として持参した桐のタンスへ向かい、腰を折り曲げて下から二段目の引き出しを引き出した。丁寧に折りたたまれた衣類の中から、まだ美保が着るには少々渋目ではないかと言う、萌黄色に柄が染め抜かれた一枚の浴衣を取り出した。この浴衣には美保にとって、特別な想い入れがあったのだ。

美保にとって、特別な想い入れ。
美保は雨と汗に濡れた浴衣の帯を解き、タンスから取り出した浴衣を広げて着替えると、風呂場へ行った。そしてヒノキの手桶に湯を汲むと、浴衣の懐をゆるめてぐっと背中の方へ押し下げると、美保の白いうなじにかかるおくれ毛、つるりとした丸い肩を出した。

手ぬぐいを手に取り、それを湯を汲んだ手桶の中へ漬け、しゃぶしゃぶ・・・二、三度泳がせたあと、丁寧に両手でしぼり、良く水を切って汗のにじんだ額、首筋、肩へと軽く押し当てるようにして体を拭く。

そうしながら美保は目を細めて、ふふふ・・・ と微笑を浮かべながら一人思う。

 (プログラミング by もずさん)

キミに会いたくて、会えなくて寂しい夜
星の屋根に守られて、愛する事の切なさを知った
愛には愛で感じ合おうよ、恋の手触り消えないように
何度も言うよ、キミは確かにボクを愛してる

あの日の夕暮れ、この浴衣を着てあなたと一緒に、初めて見に行った夏の花火。
私は浴衣が地味だと半べそかきながら、あなたの後ろからトボトボと歩き、それでも見上げた打ち上げ花火の美しさに声を上げてはしゃいだね。そのうち地味なこの浴衣の事など忘れ、二人楽しい夜をすごした。

あなたがそっと私の肩を引き寄せて言った言葉。

「愛には愛で感じ合おうよ、言葉だけでは伝わらない気持ち。その浴衣がキミに似合うようになるその時まで、ボク達はずっといつまでも一緒だ。」

私は本気にはしなかったの。でも・・・
今日、こうしてあなたの帰りを待っているのね。あの時と同じ浴衣を着て・・・
どうしてかな? ふふふ♪

軒端を伝っていた雨の雫は黙り込んで、もう聞こえない。
美保は浴衣の襟を元に戻し、結い上げた黒髪をそっと撫で上げる。

「寄り道しないで早く帰って来て。」

その時、ドーン! と言う腹に響く打ち上げ花火の音が聞こえて来た。
そして、ガラガラと玄関の戸を言わせてあの人が帰って来た。

「美保、ただいま。」

美保は浮き足立った足取りで玄関へと向かう。

「おかえりなさい。」

「おぉ? どうしたんだその浴衣。」

「おばぁちゃんからお母さん、そして・・・ あ・た・し・・・」

「そうだなぁ、まだ美保にはちょっと地味だな。」

「そうかしら? そろそろまた着ても良いかと思ったんだけどね。」

「よし、二人で花火見に行こうか。」

「うん♪ あの日の二人に戻れるかな?」

「戻るんじゃなくて、その浴衣にオレ達の歴史を上書きするのさ♪」

「二人の特別な日、二人だけの特別な想いね。」

「おい? そこのツチノコドリンクってなんだ?」

「あぁ、それは花火のあとのお楽しみ♪」

「お楽しみ・・・って、あのなぁ・・・」

真夏の夜空を踊りまわる花火の光が、色鮮やかに
天空からそんな二人を明るく照らしながら見下ろしていた。


ってな訳で、ひとり盛り上がって書いていた若林美保の作品「浴衣」のイメージストーリーもこれにて終了〜♪ しかし、この作品ってさ、完全な若林美保ちゃんの女優作品って気がします。ステージの流れとしては、そんなにすごい事をやってる作品だとは思わないんだけれども、そのビジュアルの美しさ! それはセリフのない無言劇と言ったらいいのか、演じ力と私は呼びたい。演技力ではなく、「演じ力!」やっぱり舞姫恋情のようなイメージ作品とかのお仕事とかで培った、若林美保ならではの作品と言えるのではないだろうか。

若林美保ちゃんって、色々な顔を持っているって私が言うのは、そう言うところかな。私がビデオ撮影した時のホリデーメイクの若林美保、女優として活動する時に見せる若林美保の顔、そして劇場で踊り子として見せる若林美保の顔。すべては若林美保の役作りなんだろうな。

仕事によってそれらをうまく使い分けてる、使い分ける事が出来るってのが、若林美保ちゃんの強みとか、技とか、芸のような気がする。いつもその日、その時、その場の雰囲気にピッタリ合うように、自分をフレキシブルに変化させて対応している。う〜ん、そう言う事なんだね。

だから、若林美保を踊り子さんだと思ってみてると、女優をやってる時の若林美保は別な人に思えるし、女優やってる時の若林美保を踊り子さんだと思ってみていると、それもまた別な人に思える。私が「舞姫吟醸」の撮影をしている時に思った事なんだけど、撮影現場にひょっこり現れた美保ちゃんは、普通の会社のOLさんか、隣のおねぇさんって感じで、とてもお気楽な感じで和やかに接してくれてたけど、台本渡してセリフの文章を読んで、じゃぁ、本番行きますといってカメラを向けると、しっかりと女優の顔になるのね。その時ってさ、スモークマシーンからスモークが炊かれたように、周囲の空気までじわぁ〜って変わってくるのよ。はぁーっ! これが本物の女優かって思ったもん。やっぱ全然違うよ? 本物の女優って言うのは。どんなにストリップで演技する踊り子さんでも、ああ言う深く集中して底なし沼に足がめり込んで行く様な空気って物は出ないもんね。これは実際に美保ちゃんにカメラ向けた事が無いと分らないだろうなと思う。

そうだよ、この「浴衣」って作品は女優の演技そのものですね。踊り子のそれではないと思う。これからもそう言う女優作品をやっていって欲しいですね。ではこの辺でお開きです♪
完!


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