もずのわくわく劇場日記 No.182-8


2013年 8月 19日(月) ニュー道後ミュージック
道後遠征旅日記 その8

若尾師匠の凛とした姿



衣擦れのサワサワとした音を立てて、舞台の暗闇に立つ一人の女の姿あり。
薄ぼんやりと舞台に浮かび上がるその姿を客席からじっと見つめていると明かりも無いままの舞台の上で、ひとりつぶやき始めた。

恋の成就が叶わぬならば、この黒髪をプッツリ切って冥途の旅へ旅支度・・・
悔しさも 哀しさも憎しみも、今は消えました。
ああ きれいやなァ祇園の町の宵明り。
藤さま梶はおんなに戻ります・・・

セリフ語りの余韻を引きずりながら、照明の明かりが浮かび上がらせたのは若尾師匠の凛とした姿であった。今回の道後ストリップでのキーパーソンを務めている若尾さん。結いあげた黒髪に楚々と着こなした着物。その裾をさばきながら一歩、二歩と進みながらBGMの歌詞をたどりつつ、平坦なBGMの歌詞を立体的に道後の舞台の上で命を吹き込み、リアルに表現して行く。

その姿は時空を超えて、今ここ道後にお梶の怨霊を蘇らせたと言っても過言ではない。時は元禄、歌舞伎役者の女形、藤十郎は自らの芸に悩み、本当の女ならばどのように恋を想い、どのようにそれを感じるものなのか、私がいくら想像したとて所詮は女形としての妄想にしか過ぎない。そこで嘘を言って一人の女を口説き、自分の芸の肥やしにしてしまう。しかし、口説かれた女は心底この歌舞伎役者の藤十郎の事を愛してしまうが、嘘はいつの日か必ずばれるもの。

あたしへの想いが遊びにもならない偽物だったとは、これほど切ない想いがどこにある。あぁ、憎しや藤十郎さま、あぁ、うらめしや藤十郎さま。せめてあの時だけでもお梶を愛していたと、言って下されないならば、この世に何の望みもありましょう。藤十郎さまへの愛と憎しみ、お梶の誠をあなた様に捧げます。お梶を哀れと思うならこの想い、どうぞ受け取って下さいませ・・・

若尾師匠演じるお梶は髪を振りほどき、かんざしを握りしめ、藤十郎の演じる舞台の真下で胸深くそれを突き刺した。流れ出る真っ赤な血潮はお梶の情念の色、ぐいぐいと深く差し込むかんざしが心の臓へ達した時、息も絶え絶えの若尾お梶は、絞り出すような声で一人叫ぶ。

「と、藤十郎・・・さまぁ・・・」

お梶の命の灯が舞台下の奈落でひっそりと消えかかる頃、藤十郎は舞台の上で華々しく拍手喝さいを浴びていた。

【コラボのバンドマスターが、若尾師匠にインタビューをする。】

「すごいステージでした。まさかここでこんなにすごい藤十郎の舞台を見られるなんて、感動しました。」

「いえ、いえ、そんな風に言っていただけるとこの作品をこの道後の舞台に掛けた甲斐があります。」

「いや、名作ですよ、お梶の揺れ動く心の動きの表現とか、ここストリップ劇場ですよね? マジかと思いました。」

「嬉しいです、そんなに言ってもらって。でもね、この作品で、ここまでやらせてくれる劇場は普通無いですよ。道後だからここまでやらせてくれた。他の劇場でも、お梶藤十郎の出し物はできると思うんですが、血を流して死んでしまう所までは絶対に無理で、そこをリアルに演じさせてくれるのは道後だけです。」

「と言う事は、道後限定の出し物って事になりますかね?」

「道後限定です。しかも8月限定(笑)」

「だとすると、自分、すごいもの見ちゃった♪ って事なんですね。ラストシーンのとことかホントすごかったな。」

「あぁ、あのシーン? 自分で言うのも何ですが、どう言う風に叫ぶのがリアリティーあるのかって、考えました。(笑)多分、絶叫するように言ったらそれはウソだな。だって胸を刺して血を流しているんですから、相当苦しいはず。だとすると、声にならないような声、絞り出すようなかすれた声になるんじゃないかってね。」

「おぉ〜! なるほどね。役者魂が燃えたか・・・」

みたいな事を盆前でやりとりしておりました。(笑)まぁあれって、完全にトークショーになってましたね。私も耳をダンボのように大きくして聞いておりました。楽しかったです。




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