もずのわくわくSHOW 劇場 No.1(05/02/08)



「オレンジ色の薔薇」



ガサガサと言う物音を立てて、ステージがら戻って来た二人は、楽屋のドアを開けた。
化粧前でくつろいでいる踊り子達が、その物音に気づき、鏡の中に写る神上愛と渡部リオに、チラリといちべつを投げかけると、社交辞令よろしく一声かける。

「お疲れ〜・・・」

神上愛が「ほ〜い!」と軽く返答した。
渡部リオは大事そうに、胸の前でかかえた花束を、マジマジと
見つめている。これは、先程のショーの時に、渡部リオがお客
からプレゼントされた物だ。

踊り子がショーの中で、お客から花束をプレゼントされる事は
特別変わった事ではない。

ごくありふれた日常のひとコマである。それでも踊り子にとっ
て、花を贈ってもらえると言うのは、やはりうれしいものだ。

お客の方にしたって、踊り子に花束をプレゼントするからには
さまざまな「想い」があり、そしてさまざまな「意味」がある
ものだ。


踊り子の誕生日やデビューの記念日に贈る花束。素晴らしいショーを見せてもらった時に、感激して贈る花束。悩みをかかえている踊り子を、さりげなく励ます意味を込めて贈る花束。単にお客自身がその踊り子のファンである事を認識して欲しいと、自己顕示のために贈る花束。

理由はどうあれ、男女の別は問わず、人から「花」を贈られると言う事は、単に花をもらうと言うだけではなく、贈った方の人にも、もらった方の人にも、お互いに気持ちの中に「花」が咲くのである。

「リオさぁ、もうちょっとあの絡みの場面は、タイミング良くスパ! っと来てくれない? 」

神上愛がステージのダメ出しをする。渡部リオはオレンジ色をした、珍しいバラの花を見つめながら「フムフム・・・ 私自身・・・」と、訳の分からない独り言をつぶやく。

神上愛はそんな渡部リオの事を見ながら「全然あたしの話、聞いてない・・・」とあきれた顔をした。すると、リオが大切そうにかかえている花束を見た、ほかの踊り子がリオに言う。

「リオ姉さん、それってバラの花ですか? オレンジ色のバラって、初めて見ました!」

渡部リオは、その声に反応した。

「でしょ〜? 私も初めて見たの。うれしくってさぁ♪」

そう言うと、この花束をもらった場面を、渡部リオはフラッシュバックしながら話出す。

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そのお客は、黙ったままリオのいるステージへ近づいて来た。
リオはステージから何気なくそのお客を見た。

「ほよ? あの花・・・ 私にくれるのかな・・・ ちょっと知らん顔しとこ♪」

リオは、わくわくしながら気がつかない振りをしている。
そのお客は舞台に迫り、いやがおうにもリオの視界の中に入り込んで来た。

そろそろいいかな♪ 「あっ! ようこそ♪」渡部リオはニッコリ笑って言う。
そのお客はそんなリオの事を見て、同じように笑う。

「とっても素敵なショーでしたね。これどうぞ。」

そう言うと、その客はオレンジ色のバラの花束をリオに差し出す。

「ありがと〜♪ オレンジ色のバラなんて珍しいね。赤とか青とかピンクとかって言うのは
 良く頂くんですけどね。」

すると、そのお客はリオの目をじっと見て言った。

「普通はね。でもこのオレンジ色のバラの花は、リオさんそのものなんですよ。」

「私そのもの? どう言う事かしら? 」

その客は、大真面目な顔で熱くこう語る。

渡部リオさん。実はずっと前からあなたのショーを見て来ました。リオさんのステージは他の誰よりも、ずっと進歩が早く、レッスンすれば誰でも同じように踊れると言う、ステージではありません。

振り付けの間合い、センスの良さ、創作のオリジナリティー、トータルバランスのクオリティーは、まさにあなただけのもの。あなたは、あなたでなくては踊れないステージを踊っているんです。

赤や、青や、ピンク、白のバラの花なら、どこにでも売っているし、いつでも買えるんです。でも、このオレンジ色はこの花だけの色。オレンジ色のバラの花は、どこにでもあると言う花ではなく、中々見つけられない。

探して、探して・・・ 探し続けてやっと見つけ出した。
このオレンジ色のバラの花を、見つけ出した時の気持ちって、想像できますかね。

つまり、このオレンジ色のバラの花は、リオさん! あなたと同じなんですよ。ボクは色々な踊り子のステージを見て来て、渡部リオのステージに初めて出会った時、この花を見つけ出した時と同じ気持ちで、あなたのステージを拝見してました。

このオレンジ色のバラの花は、あなたに贈ってこそ価値のある花なんです。
どうぞ、受け取って下さい。

渡部リオは、その客の話を黙ったまま聞いていた。そして、その客の言葉こそ、自分に対する最大級のほめ言葉であると思った。同時にリオは、それは最大級のプレッシャーだとも思った。何故なのか。

自分の踊る、日頃の一回一回のステージを、こんなに熱い視線で見ているお客がいる。少しでも気を抜いたステージをすれば、それがすぐにお客に伝わり、そして自分への反応としてはね返って来ると言う事だ。

渡部リオは、その客の差し出すオレンジ色のバラの花束を、重く受け取った。じっとオレンジ色のバラの花を見つめた。ステージはその一回一回が、自分との戦い、お客との戦い、真剣勝負なのだ。そう思うと、これまで自分が演じて来た過去のステージの記憶が、スライドショーのように脳裏をよぎる。

「私のステージは、このオレンジ色のバラの花を受け取るのにふさわしいモノにしないと!
 小手先のテクニックなんかじゃない、スピリット! そう、ステージは魂で踊るものなん
 だわ!」

オレンジ色のバラの花は、あらためてリオに教えてくれた。
そのお客は、黙っているリオに言う。

「その花は、あなたのためにある花なんですよ。あなたにしか受け取れない花なんです。
 あなたが踊り子としてのフィナーレを飾る時まで、ずっと私はあなたのステージを静かに
 見つめていますから、これからも頑張って下さいね。」

リオはニッコリと微笑み、うなづいた。その微笑に力強いモノを感じた客は、同じようにリオに微笑み返し、客席へと消えた。

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「へぇ〜、そんなお客がいたんですかぁ。誰だろう?」

関心してリオの話を聞いていた踊り子が言った。
すると神上愛がチチチッ! と舌打ちをしながらリオに言う。

「だからさぁ〜、もうちょっとあのからみの場面は、タイミング良くスパ! っと来てくれ
 ないかなぁ? リオはネチっこいんだよね、あそこんとこ。」

「でね、そのお客ったら名前も言わないし、握手もしないで消えたんだよね。ミステリ〜♪」

そこまで話し終わると、リオは「花瓶どっかになかったけ?」と、オレンジ色のバラの花束をかかえたまま、楽屋のあちこちをウロウロと探しまわる。

「そっかぁ〜、この花は私自身なんだぁ〜♪」

鼻歌まじりに、ようやく見つけ出した花瓶に、花を移し変えている。

「ダメだ、全然あたしの話、聞いてない・・・」

あきれた神上愛は、とっととシャワーを浴びに行こうとして、ふと気がついた。

「ねぇ〜、そう言えば、もずさんの姿が見えないけど、来てないの?
 この前、川崎で会った時、次の京都もよろしくって言っておいたんだけどなぁ〜
 ダメだなぁ〜! リオもリオなら、もずさんももずさんだ。
 全然あたしの話、聞いてないわぁ・・・(苦笑) 」



■この物語はフィクションであり、登場する人物・団体等すべて架空のものです。(爆♪)

読み切り終わり!



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